しかし、ここで注意したいのが、ハイレゾ音源はスタジオにおいて録音からマスタリングまで一貫してハイレゾスペックで作業されたものとは限らないという点だ。配信サイトを覗いてみると、1950~80年代というまだ音楽CDが世に普及していない時代、つまり、LPレコードの時代に録音されたタイトルが数多く並んでいることに気づく。
実は、ハイレゾ音源の制作にはいろいろな方法がある。音楽制作のプロセスを大きく分類すると、レコーディング、ミキシング(各種楽器やボーカルなどをミックスして1つのサウンドに仕上げる)、マスタリング(仕上げたサウンドから配布用の原盤を作成する)となる。ハイレゾ音源には、おおまかに分類すると以下の種類がある。
(1)レコーディングからミキシング、マスタリングまですべてハイレゾで行われたもの
(2)ハイレゾ以外の音源を含めてミキシング/ハイレゾマスタリングしたもの
(3)非ハイレゾの原盤をリマスターしたものをハイレゾマスタリングしたもの
これらの中でネイティブなハイレゾ音源と言えるのは(1)だけで、それ以外は、元々ハイレゾではない音源をスペックアップしてハイレゾと称しているのだ。ちなみにリマスターとは、オリジナルの原盤からノイズを取り除いたり、音質の味付けやレンジを広げるなどリファインしたものを指す。
特に多いのが(3)のパターンだ。クレジットにはリリース日が書かれていることが多く、一見して最近の作品のように見えるが、実は1960~70年代の相当古いアナログテープ時代の録音のものもある。(1)のパターンでリリースされているタイトルは非常に数が少なく、ほとんどが(3)のパターンというのが現状だ。
日本レコード協会によれば、12年のオーディオCD(12cmアルバム)のカタログ数は実に11万8215タイトルだ。ハイレゾのアルバムタイトルは、「e-onkyo music」の場合、3000タイトルに満たない。これは、元々のマスターがハイレゾでないか、96kHz、または192kHzのPCM、またはDSDでハイレゾレコーディングされたマスターが配信サイトに十分提供されていないことを物語る。
●どうやって真のハイレゾを見分ける?
ハイレゾ配信サイトで気に入ったアルバムを見つけた時、先述したどのパターンかを見分けるにはどうしたらいいだろうか?
まずは、アルバムタイトルを検索エンジンで調べ、発売日ではなく「録音日」を確認しよう。デジタルレコーディングが普及する2000年以前の録音のものは間違いなくリマスター版だ。一方、最近の録音のものやDSDで配信されているものはネイティブなハイレゾ、あるいはハイレゾミキシング+ハイレゾマスタリング版の可能性が高い。さらに「2XHD」のようなハイレゾ専門レーベルなど、レーベルで見分けるという方法もある。
ここで1つ断っておきたいのだが、「リマスター版=ニセのハイレゾ」と断定しているのではない。問題なのは、どの方法でつくられたハイレゾ音源なのかわからないことだ。また、過去に作成されたLP盤のCD化や、一旦廃盤にしたものを再発売した時に、リマスターをそのままアップコンバートしたものがあるため、CDと音質が変わらないものがあるということだ。
特に「HDtracks」では、買ってから「CDを単にアップサンプリングしただけ」と明らかにわかるものがあり、悲しい思いをしたことが幾度となくある。ハイレゾ音源はCDよりも高価で、筆者はアマゾンで980円前後で買えるCDと同じ音質のものを3000円近くも出して買ったこともある。しかも、「HDtracks」ではDSDの配信は行っていない。
●リマスター版でも音が良い?
しかし、リマスターといっても、高度な技術で古い録音をハイレゾにふさわしい音にチューニングしているものも増えてきた。例えば、ビクターでは「K2HD」という独自技術を使って、オリジナル版の高音質化を図っている。単にアップサンプリングしてスペックだけハイレゾにしているのではなく、古い名作を新たによみがえらせるという意義はあるだろう。
最後に、ハイレゾを本当に楽しむなら、それなりの機材を用意したい。安物のイヤホンやスピーカーでハイレゾ音源を聴いても違いはわからない。スマホやiPhoneで楽しむなら高品位なアンプ回路を内蔵したポータブルアンプを、家で楽しむならハイレゾ再生にふさわしいアンプやスピーカーなどを用意しよう。
(文=池田冬彦/ライター)