箱根噴火警戒で小田急電鉄の株価急落！各社のドル箱、観光スポットが窮地

　箱根山の大涌谷周辺での火山性地震のニュースが連日報じられ、東京株式市場は業績への影響を懸念して関連銘柄が株価を下げた。箱根行きのロマンスカーや箱根登山鉄道、箱根登山ケーブルカー、箱根ロープウェイを運営する小田急電鉄、箱根ホテル小涌園を運営する藤田観光、箱根湯の花プリンスホテル、ザ・プリンス箱根芦ノ湖、箱根仙石原プリンスホテルを運営する西武ホールディングス（HD）が代表的な箱根地震関連銘柄だ。

小田急電鉄

　ゴールデンウィーク（GW）明けの5月7日、気象庁が箱根の大涌谷周辺で水蒸気噴火が発生する恐れがあるとして噴火警報を発表し、噴火警戒レベルを1（平常）から2（火口周辺規制）に引き上げたことで箱根関連銘柄の株価が下落した。

　小田急電鉄の株価は前営業日比35円安の1142円。年初来高値1353円（3月19日）からは211円（16％）の下落だ。その後も1100～1180円で推移している。

　懸念は箱根リスクだ。火山活動が長期化すると、ドル箱である箱根地域への鉄道送客、ホテルの稼働率に悪影響が出る。

　小田急は、ロマンスカーで観光客を箱根に運んでいるだけではない。箱根登山鉄道やケーブルカー、箱根ロープウェイの運営も、すべてグループ企業で手掛けている。さらに芦ノ湖の海賊船、山のホテル、箱根ハイランドホテル、ホテルはつはなの3つのホテルを所有している。

　2015年3月期の箱根地区の輸送人員はすこぶる好調だった。ケーブルカーが前期比14.4％増、ロープウェイが11.9％増、海賊船が7.5％増。大涌谷を上空から望めるロープウェイは現在、運行を中止している。

　小田急にとってショックだったのは、4月30日に発表した新中期経営計画（15～17年度）が出鼻をくじかれたことだ。計画では、新宿西口に点在する小田急百貨店、小田急ハルクなどの商業施設の大規模な再開発を行い、併せて訪日外国人観光客を含めた集客力のアップを図るために箱根に積極投資することになっている。ロープウェイに新型ゴンドラを導入し、海賊船の新船建造を検討もしていた。火山性地震が長期化すれば、新中計の見直しは避けられなくなる。

　小田急の路線は、新宿を拠点に神奈川・箱根方面を結ぶ。15年3月期の連結売上高は前期比0.9％減の5187億円。消費増税前の定期券の駆け込み需要の反動で、鉄道事業の運賃収入が減った。経常利益は4.8％増の440億円、純利益は20.4％増の301億円となり過去最高を更新した。訪日観光客の増加を背景に、ホテル事業の採算が改善した。ホテル事業が、消費増税の影響を受けた鉄道、流通事業の苦戦を補った。16年3月期の売上高は3.7％増の5377億円、営業利益2.3％増の510億円、純利益は9.8％減の272億円の見込み。しかし、火山性地震が長期化すれば、この見通しの達成は不透明になる。

藤田観光

　高級名門ホテル「ホテル椿山荘東京」で有名な藤田観光の5月7日の株価は、前営業日比40円安の431円。年初来高値532円（2月24日）から101円（19％）下落した。その後も、410～430円前後で推移している。運営している箱根ホテル小涌園、全天候型温泉テーマパークの箱根小涌園ユネッサンなどの観光客の減少が懸念されるためだ。

　15年12月期の連結業績予想は、新宿ワシントンホテル本館の全室改装をはじめとする大型の改装・建て替え工事、開発案件が集中するため、売上高は前期比0.1％減の642億円、営業損益は13億円の赤字を見込んでいる。

　19年12月期を最終年度とする5カ年の中期経営計画では、訪日外国人の増加への対応や20年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けた先行投資を行い、箱根地区では17年に大型の新しい施設を開業するとしている。中計の最終年度となる19年12月期の売り上げ目標は880億円、営業利益は53億円となっている。

西武HD

　傘下に西武鉄道、プリンスホテルを持つ西武ホールディングスは、14年4月に株式の再上場を果たした。5月7日の株価は前営業日比30円安の3415円。GW直前の4月27日には上場来高値の3695円をつけたが、そこから280円（8％）下げた。その後は3200～3300円前後で推移していたが、西武HDの筆頭株主の米投資会社、サーベラスが保有株の売却を始めたことから、5月22日に急落。一時、前日比460円（14％安）の2840円まで売られた。モルガン・スタンレーMUFG証券は同日、西武HDの発行済み株式数の10％に当たる株式の転売を完了したと発表した。サーベラスは日本国内からの撤退説が出ており、残り25％の持ち株を売却する可能性がある。西武HDには箱根地震とダブルショックになった。

　再上場後初の決算になった15年3月期連結決算の売上高は、1.7％増の4817億円。プリンスホテルなどのホテル事業は外国人宿泊客が24％増え、消費増税前の定期券の駆け込み需要の反動が出た鉄道旅客部門の落ち込みをカバーした。純利益は349億円と前期比90.6％増えた。訪日観光客の増加で、ホテルの客単価が上昇。法人税引き下げで、税負担が軽減されたことも寄与した。16年3月期の売上高は3.5％増の4987億円、純利益は6.7％減の325億円を見込む。

箱根ガラスの森美術館の「うかい」

　ジャスダックに上場しているうかい（東京都八王子市）は箱根関連銘柄に挙げられているが、今のところ株価への影響はない。5月26日に年初来高値の2560円をつけた。年初来安値の2240円（1月5日）より320円（14％）値上がりした。

　高級鉄板料理「うかい亭」、とうふ会席「とうふ屋うかい」などの和洋食の高級レストランを直営で展開。15年3月期の売上高は前期比1.7％増の122億円、純利益は89.2％減の2800万円にとどまった。

　箱根では、大涌谷を望み、箱根連山を見渡すことができる庭園美術館「箱根ガラスの森美術館」が有名だ。

　気象庁の西出則武長官は5月21日の記者会見で、「小規模な噴火に注意が必要なのは大涌谷の狭い範囲。丁寧に情報提供を続けていく」と述べたが、箱根は日本最大の観光地だ。噴火警戒が長期化すると、観光業全体に大きな打撃を与えることが懸念される。
（文＝編集部）