日本並みに出生率が低いシンガポールでは13年2月、30年までに人口を1.3倍にする計画を打ち出した。毎年3万人ほどの永住者を受け入れ、そのうち1万5000~2万5000人程度に国籍を与えるという。しかし、国民の間に移民に対する社会的不安が強く、約半年後には外国人労働者への規制を強化することとなった。
保守派の論客として知られる作家の曽野綾子氏は、今年2月11日付産経新聞コラムで、日本の労働人口減少に触れ、移民を受け入れた上で人種別に居住させるべきだと主張した。例えば、今後需要が増える介護について「近隣国の若い女性たちに来てもらえばいい」としている。
しかし、そうした単純な発想こそが移民政策の失敗を招く。ヨーロッパで移民政策による社会問題が生まれた背景には、「単なる労働力としての移民受け入れ」があった。
ただ働かせるばかりで、外国人を自国の文化に融和させ、職能訓練などを行う教育・支援体制が不十分だったのだ。
日本でもすでに外国人労働者が差別され、劣悪な労働環境に苦しむ実態などが報道されている。厳しさのあまり職場から逃げ出し、そのまま日本に不法滞在するケースもある。
もし、移民政策を推進するのであれば、日本に骨を埋める覚悟のある外国人のみを受け入れるべきだろう。単なる労働力ではなく、1人の日本人として待遇するのだ。
賃金や年金、保険なども含めて、日本人と同じ条件で働いてもらわなければ失礼だ。日本社会には、最低でもそうした覚悟が必要である。もちろん、反日的な国からの移民については、国家の当然の主権として抑制をかけなければならない。
移民政策の前にやるべきことはたくさんある
日本は少子高齢化で、労働力不足は待ったなしの状態だ。しかし、移民受け入れを行う前に、政策としてやるべきことはたくさんある。例えば、労働意欲の高い女性や高齢者に働いてもらうことだ。
女性に対しては家事・育児と仕事を両立できる環境を、高齢者に対してはいつまでも働ける雇用環境を整備するのである。
安倍政権は「女性が活躍できる社会」を目標に掲げており、これは方向としては正しい。もちろん、個別具体的な政策については異論や反論があるだろうが、議論して実行に移せばいい。
一方、高齢者については、政府は何も打ち出していないように見える。しかし、人手不足の影響が最も大きいサービス業では、積極的に高齢者を戦力としている企業がある。業務内容は変えずに勤務時間を短くする“シフトの細分化”で「超短時間勤務」を導入する動きだ。