だが、冷静に考えると、望月大臣らの要求はお門違いである。
というのは、西沖の山発電所の事業主体として今年3月に山口宇部パワーを設立した電源開発、大阪ガス、宇部興産の3社はもちろん、山口宇部パワー自体も、電力業界の代表でもなんでもないからだ。母体3社と山口宇部パワーは、東京電力や関西電力のような伝統的な地域独占の電力会社ではないし、電力会社の事業者団体である電気事業者連合にも加盟しておらず、電力業界の自主ルールを主体的に提唱したり、構築したりできる立場にないのである。まして、他社に老朽設備を廃棄せよと迫ることなど不可能だ。
実は、過去1年あまりの間に、西沖の山発電所を含めて、この種の大型火力発電所建設計画が7つ発表されている。この中には、中部電力と東京電力の共同出資会社、常陸那珂ジェネレーションの常陸那珂共同火力発電所や、東京電力が進める福島復興大型石炭ガス化複合発電設備といった大手電力会社の計画も含まれていた。こうした計画は容認しておきながら、ここにきて態度を一変させたことが混乱を招いた背景なのだ。
山口宇部パワーをめぐる騒動を受け、経済界では冒頭で紹介したように「石炭火力発電潰しでも始めるつもりか」との環境省不信が広がった。1号機が8年先の23年、2号機が10年先の25年の運転開始を目指している西沖の山発電所の建設計画になんの猶予も与えず、関係業界全体のCO2排出削減ができない限り「是認しがたい」と切り捨てた環境大臣と同調する経産大臣の言動に、冒頭で紹介した鉄鋼会社幹部は憔悴の色を隠せなかった。電力会社や製紙会社、化学会社には、以前から独自の火力発電プラントを保有しているところが多く、その稼働を規制されれば国内での生産活動がおぼつかなくなるという懸念もある。
環境省に対する不信広まる
そこで考えたいのが、石炭火力発電を取り巻く環境だ。13年度の石炭火力発電の電源構成比は30.3%と、東日本大震災前の10年度の25.0%から5.3%跳ね上がった。東京電力福島第一原発事故の影響で相次いで原発が運転を停止する中で、老朽化した石炭火力発電所の運転を再開してフル稼働させるような状況に陥っていたからである。
その一方で、電力各社の発表を筆者が独自に集計したところ、昨年6月以降わずか2カ月半あまりの間に、19の火力発電所が運転停止や出力抑制に追い込まれていた。ここ数年、夏が来るたびに、石炭火力などの老朽化した発電所を酷使する状況が続いており、いつ不意の事故から大規模な広域停電が起きて、人々のくらしや企業・経済活動が大混乱に陥っても不思議のない状況が続いているのだ。