太陽光や風力といった再生可能エネルギーは依然としてコスト高の上、発電量が一定しない弱点を抱えている。CO2を出さないエネルギー源と期待されていた原発は、以前のような積極的な活用はあり得ない。そうした中では、石炭火力や天然ガスを燃料とする発電に比重を置いていかざるを得ないのは明らかだろう。
ちなみに、13年版の世界エネルギー会議報告書『World Energy Resources』によると、世界の石炭埋蔵量は8915億トンで、今後113.8年間にわたって採掘が可能という。この採掘可能年数は、天然ガスの60年や石油の56年を大きく上回り、石炭は安定エネルギーといえる。
国内では、エネルギー効率が良く、コストの引き下げとCO2の排出削減が可能な新設の発電所が増えれば、旧式プラントは競争力を失い、自然に淘汰されていくだろう。それにもかかわらず、今頃になって新設計画を凍結すると言わんばかりの環境省の政策音痴ぶりに対して、不信感が高まるのは当然だろう。
新たな規制権限
なぜ西沖の山発電所建設を認めないとする意見書を、望月大臣は提出したのだろうか。
筆者の取材で浮かび上がってきたのは、火力発電所が排出する温暖化ガスを規制する法改正を目指す動きや、現行の環境影響評価(アセスメント)法の対象外となっている出力が小さい発電所(11万2500kW以下)を規制対象に加える案が、環境省や経産省内部に存在するという事実だ。また、経産省内には、燃料電池と石炭をガス化する技術を組み合わせた「IGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)」の実証実験やその他の高度技術実用化を国費で後押しして、予算権限を拡大したいとの思惑があるらしい。
今後、国際的なCO2排出削減の動きは、あまり国内のCO2削減議論の原動力にならないだろう。というのは、今年12月にパリで開かれる国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では、GDPが伸びれば温暖化ガス排出量を増やせる中国の独自目標などを容認し、強制力がほとんどない削減目標に落ち着くという見方がここにきて強まっているからだ。
環境、経産両省には、そうした結果が明らかになる前に、新たな規制権限を獲得しておきたいとの思惑があるという。どうやら、今回の山口宇部パワーをめぐる騒動は、お役所が規制強化の布石を打つために格好のタイミングで火力発電所の新設計画が出てきたために起きたというのが、真相らしい。なんとも人騒がせな話である。
これに対して、電気事業連合会と新電力(特定規模電気事業者)19社は今月初めまでに、30年度の温暖化ガス排出量を13年度比で35%程度減らす業界有志共通の自主目標案をまとめた。この目標は、個別会社の利害調整が必要な各社別の排出総量に枠を設けるものではないため、全体としての実効性が担保されない面があるのは事実だ。しかし、関係者によると、販売量1kW時当たりの温暖化ガス排出量を各社の削減目標に据えることにより、機動的に業界初の共通目標を実現し、政府の介入を防ぐ狙いがあるという。