「大袈裟なことを言い、原発に続いて石炭火力発電まで悪者にするつもりでしょうか」――。
ある鉄鋼会社の最高幹部の一人が今月初め、筆者に沈痛な面持ちで不安を打ち明けた。望月義夫環境大臣が先月、電源開発(Jパワー)、大阪ガス、宇部興産の合弁会社「山口宇部パワー」が建設を打ち出した石炭火力発電の「西沖の山発電所」構想を「是認しがたい」と真っ向から否定する意見書を出したからである。
しかし、石炭火力発電は原発依存度を引き下げていくために液化天然ガス(LNG)火力と並んで重要性を増している発電方式だ。経済産業省が公表した2030年度の「望ましい電源構成(ベストミックス)」案では、構成比26%と、LNG火力(27%)と並ぶ車の両輪の役割を期待されている。
斜陽と見られていたひと昔前と違い、石炭は世界的に資源埋蔵量が豊富な上、日本の石炭火力発電には諸外国に比べて燃焼効率が高いという強みもある。加えて、今後二酸化炭素(CO2)排出削減効果の高い新技術が続々と実用化される予定だ。
では、なぜ望月大臣は一連の大きな流れに逆行するかのような発言を、この時期に行ったのだろうか。その背景を探っていくと、東日本大震災以来、綱渡りが続いているエネルギー事情の是正を二の次にして、自らの権限拡大を最優先する“懲りないお役所”の実像が浮かび上がってきた。
「お門違い」な突然の要求
事の発端は、先月12日の閣議後の記者会見だ。望月大臣は冒頭で、経済産業大臣から意見を求められていた西沖の山発電所の建設計画に触れ、「現段階において計画を是認しがたいとの環境大臣意見を(経産大臣に)本日付で提出します」と発言した。「是認しがたい」理由として挙げたのは、温室効果ガス削減目標やエネルギーミックスを実現するための電力業界全体としての枠組みが構築されていない問題だ。このまま個別の石炭火力発電所の建設が進めば、国の削減目標等の達成が危ぶまれるというのである。
さらに、(1)電力業界としての具体的な目標の設置によって、国としての削減目標の達成を確実なものにする、(2)すべての対象事業者が公平に参加し、フリーライダーを出さない、(3)2030年度に向けて着実にCO2削減が進む進捗管理がされる――などの条件を満たすよう、山口宇部パワーに迫ったのだった。
発電所建設問題で環境アセスメント(評価)を主管する宮沢洋一経産大臣は、望月発言の2週間後、山口宇部パワーに対して、経産大臣意見を発出した。「早期に自主的枠組みが構築されるよう発電事業者として努めること」というもので、ややマイルドな表現とはいえ、やはり望月大臣と足並みを揃える内容だった。