この2人に子どもはいなかったが、日本の離婚シングルマザーの数は、年々増加の一途をたどっており、厚生労働省の調べ(2010年)によると70万8000世帯にのぼる。しかし、離婚シングルマザーがいれば、離婚男子も同じ数だけいるはずである。離婚後、子どもを抱えた女性たちの生活は困窮し、児童虐待といった事件につながるケースも少なくない。ちなみに、09年4月から10年3月までの1年間に、厚生労働省が把握した虐待により子どもが死亡した事例は、
・虐待死事例:47例(49人)
・心中事例(心中未遂で子どものみ死亡し、加害者が死亡しなかった事例を含む):30例(39人)
聖母伝説を信じる日本男子から見れば、恐らく事件を起こした女たちは極悪非道の鬼母のように映るに違いない。しかし、核家族化も手伝い、母子家庭の母親は言いようのない不安と、孤独感からやむにやまれぬ事情を抱え、周囲に相談を重ねるが対処してもらうこともできず、犯行に及んでいるケースも少なくない。
そんなシングルマザーを生み出す背景のひとつに、日本の制度的特徴が挙げられる。
「離婚すると慰謝料とか養育費を元妻から奪われ、子どもにも会えず、一生泣くことになるから」(30代男性)と、結婚をためらっている男性も多いが、今なら安心して結婚し、妊娠出産させても、気軽に離婚できるのが現状だ。
離婚費用ゼロ
まずタダで離婚するには、「協議離婚」の選択が一番である。それも、妻(女)をとにかく感情的にさせ、「何もいらない! あなたの顔など二度と見たくない!」「あんたなんかに、保護してもらおうとも思わないわ」と言わせる。そして、子どもがいる場合には、「子どもは君が育てていい。でも離婚後も定期的に会わせてほしい」という点だけを主張し「面接交渉権」に関する取り決めだけを交わしておくことができれば、離婚費用ゼロ、さらに子どもに会うこともできるというわけである。
ちなみに、離婚とひとくちに言っても、日本では色々な方法がある。その方法は、協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚だが、そのほかに認諾離婚や和解離婚などがある。協議離婚は2人で話し合い、離婚届を役所に提出すれば完了だが、その他の方法になると、法的な場に持ち込まれ、公的証書を交わすことになるため、ケースに応じてキッチリ支払うものは支払うことになる。
例えば芸能ニュースなどで登場する「慰謝料」は、相手の精神的苦痛への損害賠償なので、基本的に「相手が離婚したがっている」となれば、支払う必要もない。そのため、離婚は先に切り出したほうが負けといわれる。また、「財産分与」は婚姻中に築いた共有財産を分与する行為なので、これがない場合には支払う必要はない。また、婚姻後に借金があった場合は、負の財産として夫婦で分与することになるというのも覚えておいたほうがよい。
財産分与、慰謝料には時効がある?
また、財産分与(離婚成立から2年)も慰謝料(離婚成立から3年)にも時効があるので、例えば男性に隠し財産があった場合でも、離婚成立後2年間、元妻に発見されなければ財産分与する必要はなくなる。もしくは、浮気で隠し子がいても、離婚後3年間、元妻の逆鱗に触れないように過ごすことができれば、元妻側の慰謝料請求権は法的にはなくなる。
もちろん、離婚の話し合い時に相手が感情的になったことを利用して「慰謝料、財産分与は一切いらない」との覚書、念書に署名捺印させることができれば、法的に支払は免除になる。
養育費不払いでも罰則はない?
子どもがいる場合の養育費は、子どもの将来のため、親の義務として支払うのは当然でるため、自分の収入に合わせ支払わなければならないことは、法律には明確に定められている。
しかし、支払わなかったからといって、逮捕されたり処罰されたりすることはないのである。さらに、養育費の支払いが滞った場合には、元妻は家庭裁判所に支払い請求調停を申し入れることができるが、呼び出し状などの書類は申し入れられる側の居住地に提出しなければならないため、離婚後住所不定になっていれば呼び出されることもない。
こうしたことが起こる背景には、制度的な要因がある。多くの先進諸外国が離婚後共同親権制度を導入しているが、日本では婚姻中は父母の共同親権が定められているが、離婚した場合にはこの共同親権を、単独親権にしなければならなくなっている。そのため、離婚後親権を妻に渡してしまえば、自分の子どもであっても、親権者としての責任はすべてスルーし、逃げることが簡単にできるのである。
ちなみに、離婚時の話し合いで小学生の子ども2名を引き取ることを決めたある男性は「子どもはカワイイ。しかし子育てのために時間を費やし、自分の時間はなくなった。元女房から『生活が落ち着き、子どもたちを引き取りたい』と言われた時は、正直ホッとした」と、子育ての大変さを漏らした。
結婚とは、他人だった女性と夫婦になること。たとえ離婚して他人同士に戻ったとしても、残された子どもは、2人にとって他人ではないということは、しっかり心に刻んでおいたほうがいい。
(文=ふじりえこ/貧困シングルマザーライター)