では、なぜ30代以下の男性の自民党支持率が突出して高いのか。
考えられる推論としては、社会の組織力学構造において、一般的には劣位におかれている女性のほうが現実的で、冷静に現実をとらえており、無駄な希望は持っていないが、ここにきてさすがに男性も現実に気付き始めたということであろう。
グローバル化・多様化のなかで、日本においても「男だから」で通用する男性中心主義が崩れてきており、それを若い男性がヒシヒシと実感してきているということであろう。ハリウッド映画では女性の躍進は著しい。『スター・ウォーズ』では女性ジェダイが登場し、『アベンジャーズ』ではキャプテン・アメリカに加えて女性のキャプテン・マーベルが現れ、『アイアンマン』の後継者はトニー・スタークの娘だと示唆されている。『007』シリーズ最新作でも、女優ラシャーナ・リンチ演じる新キャラクターがジェームズ・ボンドから「007」のコードネームを受け継ぐ。次期の欧州委員長とECB総裁も女性である。日本の若い男性が焦りを感じるのは当然であろう。
安倍首相は「多様性・女性活躍が重要」と口では言っているが、これらを熱心に推進しているかのような「やってる感」があるだけで、彼の本質は強固な伝統保守主義者(=男性中心主義者)である。選択的であっても夫婦別姓すら認めないダイハードな伝統的家族主義者、つまり男性中心主義者である。
ヒシヒシと「男だから」で通用する男性中心主義社会が崩れてきていることを感じ、「男だから」で通用する社会の解体の被害を被ると感じている若い男性は、安倍首相の本質を嗅ぎ分けているわけである。弱者に転落する不安を感じる者の嗅覚は鋭敏である。安倍首相は若者の高い支持をありがたいと言うが、自民党は、まさに将来が暗く希望のない若者男子のための政党である。「男だから」が通用する社会で守ってほしいという意思表示が、30代以下の男性の高い安倍内閣支持の背景にあるのではないだろうか。
海外で生活して思うのは、日本における男子への教育を見るに、グローバル市場における日本人の男女間の価値の開きはいっそう大きくなっていくのではないか、ということである。“開いた世界”に向かう女子と、“閉じた世界”に引きこもる男子という構図が強まり、着実に日本の若者男子はシーラカンス化に向かっているのではないか。
男子の親はこのことに早く気づいて、我が子を育てるべきであろう。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)