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鈴木貴博「経済を読む目玉」

タピオカブーム終焉なら“ナタデココの悲劇”再来も…「超高カロリー」という不安要因

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
タピオカブーム終焉なら“ナタデココの悲劇”再来も…「超高カロリー」という不安要因の画像1
「gettyimages」より

 説明不要なほどのタピオカブームが続いています。私の事務所のすぐ近くに台湾のタピオカドリンクの専門店が開業したのは昨年の秋ごろ。開業直後から今日までずっと、その行列は長くなるばかりです。このお店の開業はブームのなかではかなり早く、その後、東京中にタピオカ専門店が次々と開業したのにもかかわらず、その人気は衰える気配を見せていません。

 この半端ないタピオカブームのおかげで、まず問題になっているのがゴミの問題。もちもちの食感がおいしくて注文し、あの不思議な黒い色の見映えの良さからインスタグラムに投稿するのですが、意外と量が多いことから全部食べきれずに捨てるというユーザーの基本サイクルが出来上がっています。

 問題はその捨て方です。お店のゴミ箱に捨ててくれればいいのですが、多くのユーザーがタピオカドリンクを持ちながら街歩きをし、「インスタ映え」のよい場所で撮影をしたあとでタピオカ容器を捨てる場所を探すのですが、そうなるとタピオカ商売とは関係のない別の場所がタピオカ容器でいっぱいになります。

 公共のゴミ箱は現在、日本各地で減少傾向にありますから、一番捨てやすい場所はコンビニのゴミ箱。これはコンビニにとってはいい迷惑です。さらにゴミ箱に形や用途が似ているからでしょう、自動販売機のアルミ缶やペットボトルの回収容器につぎつぎと生ゴミのはいったタピオカが捨てられる始末。さらには路上や私有地にゴミを捨てて去っていく人が続出しているのです。

 先の参院選ではこれを政治問題として取り上げ解決することを公約にした丸川珠代議員がトップ当選するという、おかしな現象も起きていますが、このゴミ問題についてはこれからの国会での議論に期待することにして、ここではこれくらいにしておきたいと思います。

回転ずし店で中トロを上回る

 さて政治問題よりも経済問題としてとらえた場合、急激なブームで需要が増えて、台湾、タイ、マレーシアなどさまざまな場所でその供給を増やす努力が始まっている点が、私にはちょっと気になるのです。

 タピオカブームがすごいことは外食産業の経営者はみな気づいているので、結果としてさまざまな飲食チェーンがタピオカドリンクを導入しています。たとえばファミレスでは、この夏のお勧めドリンクのメニュー欄にはタピオカミルクティーとタピオカ抹茶ティーそれぞれが、大きなスペースを割いて描かれています。コンビニ、コーヒーチェーン、そして富士そばにまでタピオカは進出しています。

 私が個人的に驚いたのはタピオカドリンクの売れ行きが回転ずしチェーンで凄いという話です。回転ずしチェーンがタピオカドリンクを導入すること自体はそれほど驚くことではありません。しかし驚くべきことは、そのタピオカドリンクが回転ずしチェーン本部の予想を超えて、人気メニューの中トロの皿数を上回ったというのです。

 大手のスシローではタピオカメニューはいったん休止。競合するはま寿司では、急遽、台湾のバイヤーと交渉をしてその需要に見合うタピオカの数量確保に力をいれたといいます。もちろん日本中のファミレス、日本中のコンビニ本部がタピオカの仕入れルート確保に最重点の力を注いでいるのです。

 そして問題は、そのブームがいまだ翳る様子がないところにあります。調査をしてみたところ、どうやらファミレスでタピオカドリンクを飲む人たちと、タピオカ専門店で行列をつくる人たちは需要層としてはちょっと違う様子です。

 ざっくりといえば、ファミレスで売っているタピオカミルクティーは、タピオカ専門店と比べると価格はだいたい半額ぐらい。たとえばはま寿司の場合は一杯250円(税抜)です。黒糖タピオカのボリュームはそこそこあって、結構おいしい。こういったお店で注文する人は、タピオカドリンクの味を楽しんで注文している需要層です。

 しかしタピオカ専門店の売れ筋は違います。もっとずっと大きな容器のサイズが売れ筋で、その理由は大きな容器の底に沈むたくさんのタピオカがとてもインスタ映えするからという理由です。

 これは今、実は飲食業界全体で問題になっている現象で、さまざまな食べ物についてスーパーラージサイズが売れるようになっている。その一方で、スーパーラージサイズを注文した人は最後まで食べずに残してしまう。理由はあくまで撮影のために注文するからだというものです。

 このように飲みきらずに捨てるタピオカ専門店の需要が火付け役になって、今、全国の飲食店に広がっているのが台湾のタピオカブーム。そして日本中の飲食チェーンや商社が今、全力で台湾のタピオカ製造業者に増産の圧力をかけ続けているわけです。

ナタデココブーム

 そしてこの現象は、私たちのような昭和世代には以前、どこかで見た風景なのです。

 時は1993年。その前年にデニーズがしかけた新デザートのキャンペーンが爆発的にヒットして、日本では強烈なナタデココブームが起きていました。それまでのスイーツにない爽やかさと歯ごたえで、デザートに新しい定番が加わったと話題になりました。

 そのため日本ではナタデココが不足して、日本中の飲食店は商社に、商社はフィリピンの生産者にナタデココの増産を要請しました。そこで主にフィリピンの中小生産者たちは設備をいっせいに増強して、日本からの需要に応えるべく巨額の固定資産投資を行ったのです。

 そしてその生産体制が整ったのと同時に、日本のナタデココブームは終焉を迎えました。業者は大量のナタデココ在庫を抱えながらも、どこにも買ってくれる人がいない。結局は投資をした人が大きな損失を抱える。これが1993年に起きたナタデココの悲劇です。

 今回のタピオカブーム、どこか似ているところがありませんか? 私の実感としてはブームのタピオカミルクティーはそれとなく定番ドリンクになりうる実力はあると思います。そのせいか、ナタデココと比べるとその需要拡大の勢いは、現在のタピオカブームのほうが大きく上回っている感じがします。

 しかし、なんとなく背筋を寒くさせるのは、そのブームが「インスタ映え」に牽引されているという事実。それと、これも最近指摘され始めていることですが、タピオカミルクティーは結構カロリーが高いという事実。タピオカ1杯でビール中ジョッキ3杯分のカロリー消費になると消費者が知ったら、何が起きるのかということです。

 そして一番たくさん買ってくれている若い消費者層が「そろそろあの写真、飽きてきたんじゃね?」「体型維持にも良くないしね」と思い始めたらどうなるか。それを考えると、私はどうしても1993年に起きたナタデココの悲劇を思い起こさずにはいられないのです。

(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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