正式名称は「青年希望ファンド公益信託」。銀行などが窓口となり、お金を持った人が寄付するかたちでファンドに資金を提供。集まった資金を株式や債券に投資・運用し、そこで生まれた利益を失業にあえぐ若者の雇用創出のために使おうというプロジェクトだ。寄付をした人に利益は戻ってこないが、寄付金額の15%が免税となる仕組みになっている。
9月22日に募金を開始したのだが、韓国では連日連夜この青年希望ファンドの話題で持ち切りである。韓国では若者の失業が社会問題化しており、過酷な学歴競争や凶悪化する青年犯罪の温床になっている。そんな若者の問題をどうにかしようと考えだされたのが青年希望ファンドというわけだ。
ちなみに、青年希望ファンドへの寄付第1号は朴槿恵大統領。約200万円を寄付し、今後も毎月約30万円を寄付し続けると約束し話題となっている。そんな大統領に続けとばかりに、韓国の自治体や企業のトップ、文化人や芸能人も続々と寄付に名乗りを挙げている。
一見、とても素晴らしい社会的アクションのように思えるのだが、当の韓国ではファンド発足から1週間もたたないうちに、賛否両論が巻き起こっている。その内情を韓国紙記者はこう語る。
「関係者の話では、青年希望ファンドは朴大統領が一人で考えたアイデアだといわれています。本来であれば、周辺のブレーンに相談したり議論すべきでしょう。朴大統領が独断で物事を進める傾向があるというのは韓国の政治記者の中で有名な話です」
同記者は、「問題はそれだけではない」と付け加える。というのも、軋轢が多い労使間関係や深刻な若者の失業率を、寄付というかたちで既得権益層の“ノブレス・オブリージュ”(社会的地位が高い人はより多くの義務を負うという概念)に頼って解決しようとする点に、拭いきれない違和感を覚えるそうだ。
「政治家たちは、法律や社会システムを見直すことで問題を解決しなければならないのに、そういう発想は捨ててしまったのでしょうか。韓国が法治主義ではなく、人治主義だと外国から揶揄されることがありますが、まさにその典型例のような気がします」(同)
それでも、国が若者をどうにかしようと、正面切って行動を起こしたというのは事実だ。韓国では、2008~09年にウォンの価値が大暴落し、経済破綻の危機に直面した際、多くの庶民がなけなしの財産を国に寄付したという美談が今でも語り継がれている。
青年希望ファンドは、若者を救う原資になるのか。はたまた失業問題にとって焼け石に水で終わるのだろうか。これから先、集まるであろう寄付金の大きさは、大人たちの“本気”のバロメーターとして注目される。ちなみに、募金開始3日目までに集まった金額は1億5000万円ほどという。
(取材・文=河鐘基)