韓国で“稀代の詐欺師”と呼ばれ、警察当局が2012年に「死亡」を発表していたチョ・ヒパルに対する捜査が継続していることが明らかになった。
チョは、04~08年にかけて十数の会社をつくり、医療機器レンタルで「高収益を保証する」などと偽って、3万人の投資者から4兆ウォン(約4000億円)を騙し取った人物。韓国最大級の高額詐欺事件として知られている。
チョは詐欺行為が暴かれると08年末に中国に逃走、その後の行方がわからなくなっていた。捜査を続けていた警察は12年5月、「チョは11年12月、中国で急性心筋梗塞を起こして死亡し、韓国国内で火葬された」と発表。それでも詐欺被害者たちが“偽装死”を疑っていたため、チョの遺骨とされる骨はDNA鑑定まで行われている。結果的に遺骨は「鑑定不可能」となったものの、チョへの捜査はうやむやなまま終わったかのように見えていた。
そんななか、今年10月10日、チョの右腕とされ、中国に逃亡していたカン・テヨンが不法在留の容疑で逮捕された。早ければ今週中にも韓国に強制送還され、詐欺事件について追及される見通しだ。
さらに10月13日、チョの元側近が「朝鮮日報」のインタビューに答えた。元側近は「チョが死んだとされた後も彼と数回電話で話したし、13年末には直接電話がかかってきた。チョは死んでいない」と証言。チョの中国での生活についても、「(チョは)中国に到着するや否や整形手術を受けて顔を変えた。指紋も消そうとしていたがそれはうまくいかなった」「チョは、主にゴルフをしてお酒を飲んで日々を過ごしていた」「宿泊場所をたびたび変えて、いつも拳銃を持っていた」などと詳しく語っているだけに、チョが生きているという証言は真実味を帯びている。
ここにきて再びチョの生死に注目が集まっているわけだが、最も非難を集めているのは捜査当局にほかならない。死亡を発表しておきながら、3年後の今になって当時の発表を覆している矛盾ばかりではなく、詐欺事件が発生した後、チョを庇護し、裏金を受け取った容疑をかけられている元警察官がすでに5人も明らかになっているからだ。
たとえば、08年10月にチョから9億ウォン(約9000万円)を受け取った元総警(日本の警視に相当)が10月2日に逮捕された。元総警が金を受け取っていたのは、チョが中国に逃亡する1カ月前で、警察が本格的な捜査に乗り出した時期。警察の捜査情報がチョに横流しされたと見られており、彼に協力した捜査当局の人物はほかにも多数いたという専門家の指摘も尽きない。
もし検察や警察内部の加担者たちによってチョの中国逃亡が成功し、その後に嘘の死亡が発表され、捜査自体がうやむやになっていたのだとすれば、とんでもないスキャンダルだ。
いずれにせよ、稀代の詐欺師の生存については、いまだに不明のままだ。主犯の生死、捜査当局との蜜月など、「チョ・ヒパル詐欺事件」は高額詐欺事件の範疇を超えた大問題へと発展していく可能性が高い。
(文=ピッチコミュニケーションズ)