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炎上のなでしこ寿司店長、謝罪と誤解への反論…「女性職人が稼げる社会をつくりたい」

文=編集部
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千津井由貴さん

 厳しい男性職人の世界として知られる寿司店。そんな世界の中、女性寿司職人たちが色鮮やかな和装と、独自の飾りつけで江戸前寿司を提供して注目を集めていた「なでしこ寿司」(東京・秋葉原)が、このほどTwitter上で炎上した。炎上の渦中にある同店店長の千津井由貴さんに今後の方針などについてインタビューした。

炎上の経緯と現状

 職人とお客のコミュニケーションに重きを置いてきた同店は、「職人と従業員の全員が女性の寿司専門店」を目指して2010年9月にオープン。これまでも「板場に立つには10年必要。小娘が!」「カウンターは伝統の技を披露する職人の舞台」「女は体温が高いし、生理もあるから握るな」などといった批判にさらされながら、独自のスタイルを築き上げ、国際的な著名人が訪れたり、海外のマスコミに取り上げ られたりする人気店になった。

 炎上の発端は、ハフィントンポストに25日付で掲載された『「生理が味覚に影響」「化粧がつく」……。差別や偏見を乗り越え、ある女性が寿司職人を続ける理由』と題した記事と関連動画が公開されたことだった。

 ネット上では、過去のメディア掲載記事や画像を探し出し「着物の袖がまな板についている」「指にばんそうこうをつけたまま寿司を握っていた」などと衛生面を指摘する声や、同店の宣伝ツイートに「永谷園や他の寿司店の寿司画像が盗用されている」といった批判が次々となされ騒動は拡大した。

 8日、同店を取材で訪れた際も固定電話はひっきりなしに鳴り続けていた。店が使用しているインターネット予約サイトでは偽の大人数予約がされたり、千津井さんあてに卑猥な内容のメールが送り続けられたりしていた。

【千津井さんのインタビュー】

――今回の炎上に関してご見解をお聞かせください

千津井由貴氏(以下、千津井) まず、最初に謝罪させていただきます。「袖がまな板についている」という指摘の件に関しましては、私が見栄えを重視してしまいました。和服の間から肌着(Tシャツ)が見えてしまうため、すこし袖を下げていたこともあり、それに関しまして自分の不注意、認識不足や衛生面での優先事項が欠落していました。常連の方、心配してくださった周りの方にご心配をおかけしてしまったことを深くお詫びを申し上げます。

 7日、千代田区の保健所の方がいらっしゃいました。保健所にも抗議電話が殺到したそうです。袖の件に関して指導を受けました。ほかのネット上での指摘に関して指導はありませんでした。これらに関しては以前、保健所から大丈夫との確認を頂いています。今後はより気を引き締めていこうと思います。

 過去のツイッターなどで画像を無断転載していたことや、「お客様とのお散歩サービス」の2点に関しては、前の会社の運営によるものでした。店は2015年にオーナーと親会社が変わり、新体制になりました。しかし、前の会社からひきずっていた一部の投稿などに関して、私が気付かずに対処していなかったので、このような騒ぎになってしまいました。

まだ発展途上で試行錯誤

――経営体制が15年に刷新され、現在のスタイルになったということでしょうか?

千津井 私は2010年にアルバイトでこの店に入りました。もともとイメージしていたのが、今のような華やかな空間で、華やかなお寿司を女性が盛り上げていくというイメージだったんです。結局、それまでに10年かかってしまいました。当初、秋葉原でお店をやるのはすごく難しくて、試行錯誤しました。メイド服やセーラー服を着たり、Tシャツ姿で握ってみたりしました。いろいろなことをやっていくなかで、たどり着いた答えが今のスタイルです。

 それまでは、イベントに出た際の写真などをチェックし、客観的に見て「これは違う」と思った際は、保健所でOKが出ていたとしても、髪の毛や衣装を調整してきました。今回の炎上はこれから進化する伸びしろのタイミングで起きてしまいました。

 そもそもうちのスタッフさんは介護職とのダブルワークの子や、他の飲食店に勤めている子もいます。それぞれ、プロフェッショナルとして清潔について気を使っています。公衆衛生に関する技術や知識は今、すごく発達しています。その中で、自分たちでピックアップしてうちのお店のコンセプトにふさわしい技術や装いを選んでいます。

 もともと寿司職人の白衣が江戸時代からあったわけではなく、その装いも、これまで発展してきた結果だと思います。白衣でも良いとは思います。ただ、それだけが正しいというわけではないと思うのです。だからといって、従業員に同じスタイルを強制しているわけではありません。化粧もしたくない子はしていません。する自由、着る自由の範囲の中でお店をやっています。

ストーカー被害時の中傷投稿が再燃

――2018年にも来店客の男性が千津井さんをストーカーする事件がありました。その当時の投稿が再度発掘されて、風評被害が蔓延していますね。

千津井 前のオーナーの営業方針で、イベント的なことやメイド喫茶のようなことをやっていました。そうしたなかで、事件が発生していまいました。当時、インターネット上に書かれた「従業員が客といかがわしいことしている」といった事実無根の中傷投稿は今も消えていません。今回の炎上では、いろんなユーザーさんが、私のコラージュ画像をつくったりして「いいね」をたくさんもらっていました。

 それがまた再発掘され、蒸し返されてしまいました。公的機関の方々にも確認してもらっていますが、私たちは一切、法に触れることはやっていません。しかし、その事件のストーカーのように、嫌がらせをしてくる人はたくさんいます。非常に悲しいです。

――今回の炎上を経て、今後の店の方針を教えてください

千津井 これまでの女性寿司職人の方々は、従順な方が多かったのではないかと思います。私のような言動をする人はいなかったのかもしれません。そもそも、うちのような営業形態のお店もありませんでした。皆さん、見慣れないものに対するアレルギーがあったのではないかと思います。

 今までにないものより、既存のもののほうが「伝統」という裏付けやもっともらしいルールがありますよね。既存のルールを振りかざして、新しく幼いものに対して「正義」をふるうのは簡単だと思います。

 私はインターネット上では良い意見も悪い意見も両方返すスタンスでした。しかし、国内外で女性寿司職人としてスピーチをするようになって、多くの女性からの応援が増えてきたんです。そういう中で私がシンボルとなって、ものを言うのは大事なことだと思ったんです。店に対する誹謗中傷に平身低頭で謝罪させていただいた時期もあったのですが、そういう場合、もっと批判が増えていきました。その結果、私のやり方を「既存のスタイル」に戻そうとする「世直し隊」ができてしまいました。

 いろいろ反論の仕方を考え試行錯誤して、最近はガツンっといったほうが批判や中傷が収まっていたんです。しかし、今回は炎上してしまいました。最初は応援のメッセージが多かったのですが、握りつぶされてしまいました。うちの常連さんはネットであまり反応しません。袖のこととか、何か指摘する際も、こっそり言ってくれますし、正しい裏付けをもった意見をくださるので、ネット上で議論に参加されることはありません。

「女性寿司職人を誰でもなれる職業に」

――今回、取材に応じていただいた理由を教えてください

千津井 謝罪会見のように、「申し訳ございません」とお詫びをし、既存の寿司店のように白衣になってしまったら、これまで応援してくれた人に申し訳ないと思ったからです。きっと、いち寿司職人であればそうしたと思います。でも私は寿司職人であり、経営者です。ビジネスを進めていかなければいけない立場です。炎上で店がつぶれるのは、やっている人の心がつぶれるからなのだと思います。私は、応援してくれた人や、これからの未来のために、改めて気を締めて、悪いところをなおし、前に進めます。

 私は、女性の職人さんにとって目指しやすい社会にしたいです。いろんなメディアで日本の寿司文化は取り上げられています。どれも「厳しい世界」だと強調していますよね。そんな状況で、寿司学校を出た女性はみんな海外に行ってしまいます。日本のルールが厳しすぎることが原因です。いわゆる男性中心のルールで今までやってきて、それでやりやすい部分があったと思います。

 だからまず、女性だけで力をつけて、やりやすいルールを見つけて、女性寿司職人という職業が特別な一部の人ではなく、どんな方でも目指しやすく、ちゃんと稼げる仕事にしたいと思っています。少しずつ、女性寿司職人のリーダーをつくって世界中や日本中に羽ばたいていける店をつくりたいです。

 今後は職人を含めたクリエイターとコラボして、女性寿司職人用の道具や衣装をつくっていきたいと考えています。寿司業界では、これまで衣装も道具も女性用のものは今までありませんでした。おひつや包丁など、お寿司を取り巻く新しい空間をつくって、盛り上げていきたいと思っています。

 伝統的な寿司店のビジネスモデルが良い人は、それで良いと思うんです。でも、すべてを伝統的な型にあてはめないと寿司職人にはなれないのでしょうか。新しいことにチャンレジしてはいけないのでしょうか。今回の件で叩かれているのは幸い私だけです。このお店とスタッフを守るために、私はいくらでも悪女になります。それでも主義、主張はぶれないようにいきたいと思います。

 「日本には限界がある」とクリエイターの仲間たちが言っています。日本はとにかく減点方式です。加点方式がありません。なでしこ寿司は成長過程にあります。まさに発展途上です。これから羽ばたけるかどうかというところです。だから、翼を折らないでほしいです。だから、私は未熟な部分を見直し、改めて成長していきたいです。

(文・構成=編集部)

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