事の発端は、9月16日放送の『NEWS23』(TBS系)で、番組アンカーの岸井成格氏が安保法案について、「メディアとしても廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」と発言したこと。これに対して、作曲家のすぎやまこういち氏が代表呼びかけ人を務める「放送法遵守を求める視聴者の会」なる団体が11月26日、岸井氏やTBS、総務相に対して、「放送法違反」を指摘する公開質問状を送ったのである。
放送法4条は「放送事業者は、国内放送及び内外放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない」とし、
(1)公安及び善良な風俗を害しないこと
(2)政治的に公平であること
(3)報道は事実をまげないですること
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
を規定している。
「視聴者の会」は、「岸井氏は番組の司会者であり、番組と放送局を代表する立場から、一方的な意見を断定的に視聴者に押しつけることは、放送法4条に明らかに抵触する」としているのだが、実はこのような見解は一般的なものではない。
2007年に行われた総務相の答弁では、「一つの番組ではなく当該放送事業者の番組全体を見て、全体としてバランスのとれたものであるかを判断することが必要」との見解が示されている。このことは、今回の産経の記事の中でも述べていた。
しかし、この記事の筆者は、なぜか「なるべく一つの報道番組内で公平性や多様な意見の紹介に配慮しようと努めるのが、放送番組責任者の当然の倫理的責務」だと過度な要求を行い、さらに「政府・与党はこの問題について『報道への権力の介入だ』などという批判を恐れることなく、冷静にテレビの報道番組の現状を分析したうえで、放送法4条の運用がどうあるべきかを、議論すべき」と主張。
挙げ句の果てには「監督官庁である総務省も、非現実的な過去の答弁に縛られることなく、同条についてよりきめ細かなガイドラインを定めたり、報道番組の内容、構成をチェックして逸脱していた場合は指摘を行ったりといった対応をとるべきだと思います」と、公権力が介入することを容認するどころか、積極的に行うべきとまで主張しているのだ。まさに報道に携わる人間の発言としては、驚きを通り越してあきれるしかない。