「我々の立場を守れ!」
シュプレヒコールを上げながら街を練り歩く一団。労働者によるストライキやデモ行動が頻発する中国にあっては珍しい光景でもないが、彼らのなかには白衣姿の男女も見られる。実は、彼らは河北省永清県の人民病院に勤める医師と看護師たちである。このデモの発端は、患者遺族と医師の間に起きたあるトラブルだという。
12月19日付中国重慶晩報によると、同病院で死亡した患者の遺族が、死因は医療過誤であったと主張し、担当医師らを院内の一室に閉じ込める監禁事件にまで発展した。
同記事によれば、死亡した患者は心臓病の治療のため同院に入院していた。担当医師は手術の必要性を患者と家族に説明したが、患者の家族が手術を拒否したため患者は手術を受けることなく死亡した。
それから数日後の夕方、遺族が突然病院に押しかけて担当医師を含む3名の医師を病院内の一室に監禁し、罵倒と暴行を加えた上で土下座を要求したという。事態に気づいた病院関係者が警察に通報した。結局、監禁された医師たちが解放されたのは翌朝4時頃だった。
この事態を深刻にとらえた同病院の医師と看護師たちが、抗議の意思を示すために地元の役所に向けて大規模なデモを敢行したのだった。
はびこる医療不信と、歪んだ権利意識を持つモンスターペイシェント(患者)の増加により、つらい立場に追いやられている中国の医師や看護師。そんななかで医療側が声を上げたという点で、画期的な一件といえるだろう。
広東省地方紙の社会部記者も、中国の医師の立場の低さについて次のように話す。
「そもそも中国では、医師の社会的地位が日本や欧米に比べてあまり高くない。理系の優秀な学生は、将来的にビジネスにつながるITや工学系を専攻するので、医学部は学生からあまり人気がない。また中国の医師は激務の上、どんなに優秀でも給与は一定で高給取りにはなれない。そんなイメージからか、患者からも敬意を持たれず、何か気に入らないことがあれば医師を殴ったりする事件が非常に多い」
中国では、モンスターペイシェントによる医師への暴行事件が以前から頻発しており、医師は「きつい・汚い・危険」の3K職業といっても過言ではない。しかし一方で、患者に袖の下を要求したり、収益のための不必要な治療を繰り返す医師がいるのも事実。こうした状況が続けば、医師と患者の溝は深まるばかりで、治療どころではなくなってしまうだろう。
(文=青山大樹)