「20歳以上ですか?」
最近はコンビニエンスストアで酒類やたばこ(以下、酒類等)を購入する際、レジにこのような確認画面が出てくる。原則として、その質問に対して「はい」のボタンを押さないと会計ができない。
2013年、当時15歳の少年にたばこ2箱を売ったとして、コンビニの40代店員が未成年者喫煙禁止法違反に問われた事件があった。第一審で裁判所は、たばこを販売した店員に対し有罪として罰金刑を科した。だが昨年9月、高等裁判所は防犯カメラの画像などを分析した結果、当時の少年の身長などから「未成年者と判断、認識していたと認めるには、合理的な疑いがある」と逆転無罪の判断を下した。この事件は、未成年者に酒類等を販売すると、店員が刑事罰に処されるおそれがあるということをあらためて示した。
だが、酒類等を購入しようとする未成年者が、年齢確認で「はい」のボタンを押し、あたかも自分が成年者であるように振る舞うことはよくありそうだ。その場合、未成年者自身は酒類等を購入したとしても罪を負うことはないのだろうか。
労働関係の問題に詳しい中村新弁護士は「未成年者飲酒禁止法および未成年者喫煙禁止法が一定の義務を課し、義務に違反した場合に処罰の対象としているのは、未成年者の親権者等、販売業者および販売業者の代表者・従業員等であり、飲酒・喫煙した未成年者が刑事責任を負うわけではありません」と話す。
年齢を偽った未成年者に販売しても罰せられる
一方の販売者には、未成年者へ酒類等の販売を防止する義務がある。そこで、目視した上で未成年者に見えるような人物には、確認パネルのタッチだけでなく身分証の提示を求めるのが原則だ。しかし、この確認はあくまで店員の判断で行われており、身分証の提示まで求めずに誤って未成年者に酒類等を販売してしまうことはあり得る。
「酒類販売者は、未成年者に対し、飲酒・喫煙することを知りながら酒類等を販売することを禁止されています。これに違反した場合には、50万円以下の罰金という処罰を科され、店の代表者・従業員共に処罰されます」(中村弁護士)
誤って販売してしまうと、刑事罰を科されるだけでなく場合によっては「犯罪者」のレッテルを張られることにもなりかねないのだ。また、相手が未成年であることを知らなければ販売しても許されるわけではない。
「販売者は、未成年者の飲酒・喫煙を防止するために、年齢確認等の『必要な措置』を講じるものとされています。具体的な方法は特に法定されていませんが、コンビニなどで酒類等を購入する際には年齢確認パネルへのタッチが求められており、これが『必要な措置』として行われていると思われます。しかし、明らかに未成年とわかる外見の客に対して、形式的なボタンタッチのみの確認で済ませた場合には、『未成年者に対し、飲酒・喫煙することを知りながら酒類等を販売した』と判断され、処罰対象となる可能性があります」(同)
年齢確認パネルへのタッチが販売者の免罪符になることはなく、明らかに未成年とわかる客に酒類等を販売した場合には、それがたとえコンビニやスーパーのアルバイト店員であったとしても、経営者と一緒に刑罰が科される可能性があるのだ。
先の事件においては、たばこを購入した少年が明らかに未成年者とわかる外見ではなかったと判断したからこそ、高裁は逆転無罪としたのだ。ちなみに、このときも少年は年齢確認パネルにタッチしていたことがわかっている。
未成年者が酒類等を購入して飲酒・喫煙しても罰せられることはない。そればかりか、仮に未成年者が飲酒したことによって酩酊し事件を起こしても、少年法によって守られている未成年者は、成年同様の処罰を受けることはほとんどない。
販売する側にだけ罰則を設けて禁止しても、購入する側である未成年者になんらペナルティがなければ、好奇心から酒類等を購入しようとする未成年が後を絶たないのは必然だ。年齢を偽って酒類等を購入した未成年者自身に対しても、なんらかのペナルティを与えるべきではないだろうか。
(文=Legal Edition)
【取材協力】
中村新(なかむら・あらた)弁護士
中村新法律事務所所長(http://nakamura-law.net/)
2003年弁護士登録。東京弁護士会所属。東京弁護士会労働法制特別委員会委員、東京労働局あっせん委員などに就任。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。企業の倒産処理(破産管財を含む)、交通事故紛争などにも力を入れている。