目前に迫った消費再増税、家計4.6兆円の負担増も…景気が相当な腰折れのおそれも
そこで、内閣府の最新マクロモデルの乗数を用いて、消費税率が2%引き上げられた場合の影響を試算すると、初年度に個人消費の1.02%押し下げを通じて実質GDPを0.48%押し下げることになる。一方、そこに総額1兆円分の軽減税率を導入した場合の効果を試算すると、初年度に個人消費の押し下げ0.84%を通じて実質GDPを0.39%押し下げることになる。従って、1兆円分の軽減税率導入効果としては、初年度に個人消費の0.18%押し上げを通じて実質GDPを0.09%押し上げることになる。
従って、内閣府のマクロ計量モデルの乗数をもとに経済成長率への影響を試算すれば、16年度は駆け込み需要により0.4%経済成長率を押し上げるが、17年度については0.8%も経済成長率を押し下げると試算される。従って、外部環境にもよるが、無防備で消費税率を引き上げれば相当景気腰折れの可能性が高まるだろう。
なお、軽減税率導入となると、IT関連業界への直接的な恩恵となるが、事業所などの会計システム変更を余儀なくされることが想定されるため、その分の一時的な効果も考慮しなければならない。一方、先に指摘した通り、財源捻出のために軽減税率以外の分野で増税となる可能性もあり、トータルでどの程度のメリットとなるかの試算は困難である。
社会保障の効率化が必要
今後の消費税率引き上げにおける課題としては、まずデフレ脱却への影響が指摘できる。理由としては、日本経済研究センターが行う経済予測「ESPフォーキャスト調査」に基づけば、同調査のコンセンサス通りに成長した場合はデフレギャップが来年度後半に解消することになるが、17年4月から消費税率を引き上げることになると再度デフレギャップが生じてしまうからだ。
特に、14年4月に消費税率を引き上げた際も、引き上げ直前にデフレギャップが一時的に解消したものの、消費税率引き上げ直後に安倍政権発足以前の水準までデフレギャップが逆戻りしてしまった経緯がある。また、軽減税率の事前準備が難しく、来年4月までに法律をつくるには相当の困難を伴おう。
さらに、前回の消費税率引き上げの影響を勘案すると、安定的な財源が確保されることにより税収増が期待できる一方で、家計の恒常的な購買力低下で内需への影響が大きいという声もある。従って、前回の消費税率引き上げでは家計向けの支援策が0.7兆円弱にとどまったことからすれば、家計向けの支援策等、ある程度の予算を配分した対策は不可欠であると思われる。一方で、将来のさらなる消費税率引き上げ幅を抑制する意味でも、社会保障の効率化も必要な策といえる。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)