(「Wikipedia」より)
このため、財務省主計局は、年末年始返上で仕事に追われ、省内は正月とは思えないほど、殺気だっていた。
約13兆円の3分の1が公共事業費ということで、エコノミストの評価は厳しいものが多い。
しかし、民主党政権下で、パフォーマンスのために公共事業が削減され、経済全体が縮小したことを思うと、希望がもてるという声が少なくないこともまた事実なのだ。
新政権の姿勢は、霞が関内での勢力図にも影響を与えそうだ。かつて、官の中の官と呼ばれる財務省で一番のエリートコースは、莫大な予算がついた公共事業を担当する主計官だった。ところが、ここ10年あまりで、高齢化で黙っていても毎年1兆円の社会保障費が増えていく厚労分野の担当主計官が花形になった。
「自民党本部だけでなく、国交省にも、久しぶりに陳情の業者があふれ返っている。財務省でも国交担当部局が十数年ぶりに賑わっている。予算の采配は我々の権力の源泉ではあるが、国庫負担が増えることで財政健全化の道はまた遠くなった。困ったことに、この複雑な方程式を解く方法を誰も知らない」
と、財務省幹部は諦念を感じさせる様子で語った。
●自民党大物代議士秘書が持ちかけた“おいしい”話
そうした中、政治と時代の波に翻弄され、置き去りにされたとしか言いようがない人々がいる。
三重県度会郡南部に位置する南伊勢町。人口、1万3000人あまりの小さな町は、漁業が主要産業で、アコヤガイやハマチの養殖が盛んだ。そして6年前、この町であった「大騒動」は、今でも町の人たちの記憶から薄れることはない。
「いったいなんだったのかと、いまだに(全容が)よくわからなくて、時折酒を飲みながら話すのですが、やっぱりわからない。私らは田舎者だし、政治ってやつは実に怖い……」
と、漁業組合の関係者はしきりにクビをひねった。事の発端は、平成19年に遡る。自民党の大物代議士の秘書の名刺を持つB氏(仮名)から、町が潤うという話がもたらされたのだ。
●「地元が潤う」と説得する秘書
平たく言うと、こういう内容だった。
世界初の人口島と桟橋のハイブリッド滑走路として、「羽田空港D滑走路」の建設工事がスタートしたのは、平成19年3月のことだ。羽田の発着枠を大きく引き上げることが、滑走路拡張の目的だった。その舗装工事に必要なのが「岩ずり」と呼ばれる砕石や大量の砂だ。
その工事で、砕石を大量に業者に供給することになったのが、三重県にある「M庭石」という会社だ。ところがM庭石から入手した石や砂を運搬するための積出港がなかなか見つからなかった。そこで浮上したのが、南伊勢町にある「吉津港」を使えないかという話だった。
しかし、吉津港の使用には、新たな整備が必要など、制度上の問題が山積していた。地元の漁業組合でも「俺たちの港を使って、なんで石を運ばないといけないのか」といった反対意見のほうが強かった。そのため、当時の稲葉輝喜町長も前向きではなかったという。だが、石を売りたいM庭石や、大きな岩を砕くのに欠かせない火薬を扱う会社の「株式会社A」(岐阜県大垣市)も事を進めたがった。