2月10日、一般社団法人KJプロジェクトが主催する「第8回日韓記者・市民セミナー」で、日本共産党書記局長の小池晃参議院議員が日韓関係や安倍政権の内政外交問題などについて語った。
韓国との間で火種となっている元徴用工の問題について、小池議員は「日本政府、日本の最高裁、韓国政府、韓国大法院の4者が、いずれも被害者個人の請求権の存在は認めています。日本共産党は、この一致点を大切な解決への糸口になると考え、国家間の請求権と個人の請求権をきちんと分けた冷静な議論が必要」と述べた。
また、共産党は1月に行われた党大会で16年ぶりに綱領を改定し、中国に関する記述を削除した。いわば中国共産党との違いを鮮明に打ち出したわけだが、その真意についても語った。以下、その様子をお伝えする。
「日本政府は植民地支配を反省していない」
昨年は比較的、リベラルと呼ばれる新聞を見ても韓国バッシングが続き、多くの方が心を痛めたのではないかと思っているところです。私たちは政治の責任として事態の打開を図り、関係の改善、相互理解、友好促進を通じて、粘り強く活動してきました。超党派でも、いい動きはありました。
昨年11月の日韓・韓日議員連盟の合同総会の共同声明では、我々も主張して、「過去を直視し、相互理解と信頼に基づいて未来を志向する」とうたった1998年の「21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ共同宣言」の精神に立ち戻り、「両国関係を早期に正常化させなければならないとの認識で一致した」と全会一致で確認しています。私たちはこれを原点とし、踏まえて臨むべきです。日本側が一番しっかりやらなければならないことは、過去の植民地支配への真摯な反省の立場を揺るがせない、後退させないことと思っています。
これは日韓関係だけでなく、日本とアジア、日本と世界のまともな関係をつくっていく上で、絶えず重要な問題です。ところが、安倍政権は過去の侵略戦争を、そして植民地支配に対する責任を明確にせず、逆に正当化する。戦後70年談話でも、そういったことをあらわにしています。これが大きな矛盾や問題を生み出しているところに、深刻さがあります。
徴用工の問題。これは、多くの朝鮮人が日本の企業、工場や炭鉱で強制的に働かされ、虐待され、食事も与えられない。お話を聞くと、本当に過酷な環境で働かされ、多数の死傷者を生む結果となり、賃金も支払われなかった例も多数ある。こうしたなかで、韓国大法院が一昨年の秋に元徴用工の訴えを受けて、「当時の日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配および侵略戦争の遂行と直結した反人道的な不法行為」と判断、企業の賠償責任を認める判決を下しました。
一方、日本政府はこの判決に対して「国際法違反」と繰り返しています。1965年に締結された日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決しているとし、韓国を非難しています。
日本政府が言うように、仮に日韓請求権協定によって日韓両国間での請求権の問題が解決済みだとしても、実際に被害に遭った個人の人たちの請求権までを消滅させることはできません。
そのことは、日本政府が国会答弁などで公式に繰り返し表明してきたことです。1991年、当時の柳井俊二外務省条約局長は「これは日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄したということ」であり、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない」と答弁しています。
政府だけではありません。日本の最高裁判所も同様の判断を2007年に示しています。中国の強制連行による被害者が日本の西松建設を相手に起こした裁判で、日本と中国は共同声明を結んだ際に、「個人の裁判上訴求する権能を失った」としながらも、「それぞれの人の請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではない」と判断を示し、さらに「任意の自発的な対応をすることは妨げられない」と述べて、西松建設が被害者に謝罪し、和解金を支払う和解につながりました。
日本政府、日本の最高裁、韓国政府、韓国大法院の4者が、いずれも被害者個人の請求権の存在は認めています。日本共産党は、この一致点を大切な解決への糸口になると考え、国家間の請求権と個人の請求権をきちんと分けた冷静な議論をすることを訴え、日本政府に加えて韓国政府も、それを踏まえて冷静に解決の方法を探るべきです。このことは韓国大使にも伝えています。
さらに言えば、日本政府は日韓請求権協定の交渉過程でも植民地支配の不法性を認めず、謝罪もしていません。つまり、植民地支配を反省していないのです。韓国大法院は、こうしたもとで結ばれた日韓請求権協定が、未払い賃金は別として、慰謝料請求する権利までは否定しているとは見られないとしています。私は、この韓国大法院の判決には合理性があると思っています。未払い賃金や補償金ではなく、不法な植民地支配と日本企業の非人道的労働に対する慰謝料であるとの判断に対しては、耳を傾けるべきです。
徴用工の問題については、本当に非人道的な扱いを朝鮮人のみなさまに対して行った。侵略戦争・植民地支配と結びついた重大な人権問題であり、それに対して謝罪も反省もしてこなかったわけで、日本政府や日本企業は被害者の名誉と尊厳を回復し、公正な解決を図るために努力をするべきです。
共産党が提唱する5つの政治姿勢
日本共産党は、日本とアジア諸国との「和解と友好」に向かう年となることを強く願い、日本の政治がとるべき5つの基本姿勢を提唱しています。
第一は、「村山談話」「河野談話」の核心的内容を継承し、談話の精神にふさわしい行動をとり、談話を否定する動きに対してきっぱりと封じていく。
日本軍の慰安婦問題について、被害者への謝罪と賠償など、人間としての尊厳が回復される解決に踏み出す。
国政の場にある政治家が靖国神社を参拝することは侵略戦争肯定の意思表示を意味するものであり、少なくとも首相や閣僚による靖国参拝は行わないことを日本の政治のルールとして確立する。
民族差別をあおるヘイトスピーチを根絶するために、政治が確固たる立場に立つ。
「村山談話」「河野談話」で政府が表明してきた過去の誤りへの反省の立場を、学校の教科書に誠実かつ真剣に反映させる努力を尽くす。
これを土台に据えてこそ、真のアジアとの友好関係が築かれるし、世界から信頼される日本になっていくのではないかということを大いに訴えていきたい。
自民党の中にも、日韓議連に参加している保守の国会議員にも、今の状態を憂いている人はいます。二階俊博幹事長も今通常国会が終わってからだと思いますが、1000人単位で派遣団を出す交渉もされているようです。ただ、元徴用工について日韓請求権協定の遵守を望むという政府の姿勢と変わりませんが、そういうなかでも事態の打開を図っていきたいという思いの自民党議員も多くいます。一番悪いのは安倍さんで、何を言っても門前払いですから、自民党でも日韓の友好を願う議員とゆるやかに連携していきたい。
また、旭日旗については、旧日本軍の象徴であり、持ち込むことは許されないです。スポーツに政治を持ち込むことは許されないと一方で言いながら、最大の政治的なシンボルを持ち込むことは大きな矛盾です。五輪について、コロナウイルスなど懸念材料は多いです。あまり浮かれてもいられないと考えています。
党綱領から中国の記述を消した理由
もうひとつは中国問題です。今回、党の綱領を16年ぶりに改定し、中国を「社会主義を目指す新しい探究が開始され、21世紀の世界史の重要な流れの1つとなろうとしている」という記述を削除しました。3年前の党大会でも、中国に対し「新しい大国主義・覇権主義の誤り」が表れていることを指摘し、その誤りが今後も続き、拡大するなら「社会主義の道から決定的に踏み外す危険」があることを警告していました。
しかし、3年間でこの問題が一層深刻になりました。私たちが懸念しているのは核兵器の問題です。中国は核兵器保有5大国の一員として核兵器禁止条約に敵対の立場をとり、核軍拡を進めています。
次に、東シナ海と南シナ海での覇権主義的行動も深刻化しています。尖閣諸島の領海侵入も常態化しています。南シナ海については大規模な人工島が建設され、巨大な軍事基地をつくっています。これは力による現状変更です。
さらに、人権抑圧が深刻化しています。特に香港で顕著になっています。至近距離からデモ参加者に発砲するという事態になっています。警察もデモもどっちもどっち論があり、デモが平和的に行われることは重要ですが、実弾を発射することは絶対に容認できません。しかも、重大なのは、こうした弾圧が中国共産党の指導と承認のもとで行われていることです。我々は、中国共産党の香港の抗議行動弾圧を即時中止することを強く求め、事態が平和的に解決することを強く望みます。
こうした中国共産党の行動は、どれも社会主義の原則や理念と両立し得ないものといわなければなりません。中国について、「社会主義を目指す新しい探究が開始」された国と判断する根拠は、もはやなくなりましたため、記述を削除したのです。
マスメディアのみなさんから「中国共産党と同じように見られるのが嫌で削除したのですよね」という質問もあり、もちろんそれもあります。しかし、それだけではありません。中国が行っていることに対して、国際的にも批判する姿勢が弱いのではないかと懸念しています。
安倍政権にしても、「中国ガー」と言って軍拡の口実に利用するけれど、中国が尖閣諸島に領海侵犯を繰り返しても正面から不満を示していません。香港の人権弾圧についても抗議もしていません。先日の参議院の外交防衛委員会で、元自衛隊で“ヒゲの隊長”の愛称を持つ佐藤正久参議院議員は、共産党の志位和夫委員長のツイッターを印刷して配っていました。「日本共産党も中国政府に抗議して発信している。外務省も発信すべきではないか」と質問しました。
それに対して、茂木敏充外相は「日本が中国、香港政府、デモ隊のいずれかに偏った発言をすると平和的解決のプラスにならない」と腰が引けていました。習近平国家主席を国賓として呼びたいがために、正面から批判をしないという態度です。そこで、日本共産党が中国共産党を批判することに意味はあります。
ただ、私たちがこういう批判をするのは真の日中友好のためです。中国との関係を断絶しようということはまったくありません。中国は日本にとって重要な隣国です。日中友好があってこそ、北東アジアの平和と友好も築かれます。
(構成=長井雄一朗/ライター)