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ツタヤ図書館、市の基本計画に盗用疑惑浮上…市長、突然のツタヤ委託宣言の不可解

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
ツタヤ図書館、市の基本計画に盗用疑惑浮上…市長、突然のツタヤ委託宣言の不可解の画像1「第二次多賀城市立図書館基本計画」

「市の公文書で、コピー&ペーストを疑われるような文章を掲載していること自体が法律以前の問題で、常識的にアウトですね」

 ある自治体関係者が、そう感想を漏らす。視線の先にあるのは、「第二次多賀城市立図書館基本計画」と題された、れっきとした公文書である。

 次々に問題が湧き上がる“ツタヤ図書館”の不祥事体質をご存じの人は、「またか」と思われるかもしれない。2月15日付当サイト記事『ツタヤ図書館、市から「天下り入社」疑惑の新館長を直撃!「市長から声かけられた」』でも取り上げた宮城県多賀城市立図書館をめぐり、続けて新たな疑惑が持ち上がってきた。

 それは、同図書館がツタヤ図書館となるスタートラインともいえる文書に、ある本からの盗用が疑われるような酷似箇所が多数見つかったのだ。

 どこの自治体でも数年に一度、公共図書館の基本的な方向性や在り方についての基本計画をまとめて発表するのが通例だ。それが「図書館基本計画」である。

 多賀城市では、教育委員会が2013年11月22日付で「第二次多賀城市立図書館基本計画」を発表し、翌年度から5年間にわたる計画を示した。

 見過ごせないのは、その数カ月前、まだ議会で議論すらしていない段階で、菊地健次郎市長が駅前に移転する新図書館の運営を、ツタヤを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に委ねる方針を記者会見の場で発表していたことだ。

 今回問題になっている「基本計画」は、図書館を民間企業に任せるか否かの議論を始める起点となった重要な位置付けの公文書だ。その中から、盗用を疑われる箇所がボロボロと出てきた。

まるでコピーのような文章

 まずは中身を比較してみてみよう。

「基本計画」5ページ『ITに精通する世代と、公共図書館との間に存在するギャップ』にある、以下の本文だ。

<ITに精通する世代は、モバイルPCを使って、カフェやオフィスあるいは車で、「e メールを送る」、「電話をする」、「新聞を読む」、「写真を撮る」、「SNSでヴァーチャル・コミュニティに参加する」、「ブログで自分の考えを発信する」、「仕事をする」等、これらを同時に行うといったことを当たり前に行っています>

 図書館利用が低調な理由のひとつとして、若者の情報行動を端的に表現した文章だ。一読した限りでは特におかしさは感じないが、次の文章と比較するとどうだろうか。

<すでに今日、手頃なモバイル・パソコンを持つ十代は、自宅のソファで、あるいは無線LANに接続できる広場やカフェで、次のようなことをしている。

・オーストラリアにいる友達や親戚にeメールを書く
・Skypeで昨年夏に知り合ったカリフォルニアの女の子に電話をする
(中略)
・『レプッブリカ』『ル・モンド』『フランクフルター・アルゲマイネ』『朝日新聞』を読む
・ヴァカンスで撮った写真を見たり、修正したり
(中略)
・ブログを作り、ネット上で自分の考えを発信したり
(中略)
・FacebookやTwitterといったヴァーチャル・コミュニティに参加する。>

 こちらの文章は、イタリア人で数々の斬新な図書館創設にかかわってきたアントネッラ・アンニョリ氏の著作『知の広場 -図書館と自由-』(訳:萱野有美/みすず書房)の46ページ5行め~47ページ8行めまでの抜粋である。

 細かくパーツを分けて見ていくと、前掲した図書計画の文章は、この文章を要約しただけのものであることが明瞭にわかる。

 たとえば計画書にある「eメールを送る」「電話をする」「新聞を読む」「写真を撮る」などは、『知の広場』で箇条書きされた部分を行為だけ抜き出して順番に並べただけのもの。「FacebookやTwitter」を「SNSで」に、「モバイル・パソコンを持つ十代」が「ITに精通する世代」と言い換えているのを除けば、ほぼ骨格部分は同じだ。

 比べてみると、「基本計画」の「カフェやオフィスあるいは車で」との文言だけがオリジナルのようにみえるが、『知の広場』の続きを見ると、「スターバックスや車やオフィスが挙げられ……」という酷似した記述が見つかる。明らかに『知の広場』をなぞるように文章を作成していることがわかる。

類似箇所が頻出

「重箱の隅を突つくような批判だ」と思われる向きもあるかもしれないが、先に読み進めると、『知の広場』で記述されているままの表現が次々に出てくる。それを見ていただければ詳しい解説は不要だろう。以下に、主なところをいくつか挙げておこう。

類似箇所(1)

・「基本計画」5ページ
<ときとして、情報の鮮度を追求するあまり、見出し、更新版、ダイジェスト版といった細切れのニュースを摂取して吐き出す消費的作業に多くの労力を費やさざるを得ない状況下に陥ることもあります>

・『知の広場』48ページ3行め
<つまり、彼らにとって、情報とは「見出し、更新版、ダイジェスト版といった細切れのニュースだけを摂る規則的なダイエット」なのだ。

「見出し、更新版、ダイジェスト版といった細切れのニュースを摂取」は、あまり一般には使われない表現をそのまんま転載したものと言ってもいいだろう>

類似箇所(2)

・「基本計画」10ページ 『(1)地域の文化を育む場』
<図書館は、社会活動に活気を与え、地域のソーシャル・キャピタルを豊かにする>

・『知の広場』108ページ11行め~12行め
<つまり、優れた運営の公共図書館は、地域のソーシャル・キャピタルを豊かにする場所なのである>

「社会資本」と言わずに、わざわざ「ソーシャル・キャピタル」という言葉をマネしているのは、『知の広場』で著者のアンニョリ氏が提起している、新しい時代に求められている市民と共働する図書館のコンセプトに共感を抱いて、それを市の図書館に取り入れたいのだろうと善意に解釈することは可能だが、それもたびたび重なると、眉唾さに拍車がかかる。たとえば、以下の部分も、『知の広場』のコンセプトをそのまま踏襲したものだ。

類似箇所(3)

・「基本計画」10ページ
<図書館は、本を通じて、交流と出会いを生み出す「屋根のある広場」となる>

・『知の広場』92ページ9行め
<図書館は、公共の場所としての危機から逃れることはできない。もし逃れたいのなら、新たな取り組みを推し進めねばならない。つまり、出会いの場へと、大人から子供、裕福な人から貧しい人、ジプシーから枢機卿までに利用される「屋根のある広場」へと生まれ変わるのである>

 極め付けは、最後の提言部分である。

類似箇所(4)

・「第二次多賀城市立図書館基本計画」12ページ
<形式ばらない雰囲気づくりをすること>

・『知の広場』198ページ本文6行め
<形式ばらない雰囲気にすること>

類似箇所(5)

・「基本計画」12ページ
<図書館運営・活動への市民参画と協働を促すこと>

・『知の広場』199ページ本文5行め
<図書館のプロジェクトやイベントに市民を参加させること>

 この部分はアンニョリ氏独自の意見というよりも、ごく一般的な意見なので、「たまたま似てしまった」だけなのかもしれないが、それにしても、特に詳しく精査したわけでもなく、ざっと見渡すだけで酷似箇所が次々に見つかる。

CCCありきの議論だった?

 これだけ文章が酷似する事態を、いったいどのように解釈すればいいのか。多賀城市教委に確認すると、次のような回答があった。

「第二次多賀城市図書館計画は、教育委員会事務局で作成して図書館協議会のメンバーの方たちにご承認いただいたものです。出版社の担当者に計画案文を確認いただき、問題ない旨の回答がありました」

『知の広場』の出版社は、問題ないと回答し、件の文書の末尾には同書を参考文献とした旨の但し書きがある。それならば、引用部分はカギカッコで示すなど引用のルールに則るべきではなかったか。

 もう一点、不思議なのは、この「基本計画」の巻末には、さらに『世界で最も美しい書店』(清水玲奈/エクスナレッジ)という本が参考文献として挙げられていることだ。

 同書を入手して読んでみると、世界中の書店の写真がしゃれたエッセイと一緒に掲載された大型本で、図書館に関しての言及はほとんどない。いったいなんのために、どの部分を参考にしたのか皆目見当がつかない。

 ちなみに、同書は後半部分で代官山蔦屋書店の写真と紹介文が掲載されており、巻末の奥書には現役CCC広報部員の名前がクレジットされている。この本を参考図書とした理由について市教委は、「本を通じて市民文化が成り立っている事例などが紹介されており、図書館を地域コミュニティ創出の場に位置付ける着想を得たため、参考文献として明記しました」と説明している。

 つまり、市教委事務局側は当初からCCCによる図書館づくりを念頭に置いて、CCC経営の蔦谷書店が紹介されている本を参照していたということなのだろうか。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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