2020年に入り、抗争が激化することも十分に考えられていたが、現在の山口組の分裂抗争は、ある意味において静寂に包まれているといえるのではないだろうか。
まず、独自の路線で組織改革を断行させ続ける絆會であるが、任侠山口組からの名称変更に伴い、2月17日、あらためて絆會として指定暴力団に官報へと公示されたのであった。
また、六代目山口組、神戸山口組両陣営とも、水面下では激しいとまではいかなくとも組織防衛に回りながら、移籍に関するもののほか、さまざまな情報が錯綜している。
そうしたなかで、大安吉日となった2月16日、六代目山口組の最高幹部と、“山陽の雄”と評され、広島県広島市に拠点を置く六代目共政会のトップが五分の兄弟盃を交わしたのである。ヤクザ社会にはさまざまな盃ごとがあるのだが、五分の兄弟盃とは、お互いが対等であることを意味する。
式場となったのは、岡山県岡山市に本拠地を置く六代目山口組の二次団体、二代目大石組本部事務所。そのため、同県内には、警察の捜査員や機動隊員が述べ約250名派遣され、さまざまな箇所でバリケードが張られるなど、厳戒体制が強められていたのだった。そして、時代の流れといえるだろう。そうした模様は、リアルタイムでSNSによって拡散されたのであった。
そんな物々しい空気の中で、両団体に関係する親分衆が続々と二代目大石組本部に結集したのであるが、地元関係者の話によれば、集まった親分衆の表情は厳格のなかにも朗らかであったという。分裂抗争の真っ只中にあるようには感じられなかったというのだ。
去年末より話題となっていたこの兄弟盃。晴れて兄弟の契りを結ぶことになったのは、六代目山口組で若頭補佐を務める二代目竹中組・安東美樹組長と六代目共政会・荒瀬進会長。そして、この兄弟盃の後見人となったのが、六代目山口組・司忍組長であり、司組長の名代として六代目山口組・髙山清司若頭が出席したのである。また、取持人(仲介役)や媒酌人(儀式の進行を務める役目)は他団体のトップと最高幹部が務めたことを見ても、この兄弟盃がどれだけ業界内で注目を集めていたのかが、わかるのではないだろうか。
取持人を務めたのは、山口県下関を中心に勢力を誇る七代目合田一家・末広誠総長。媒酌人は、福岡県博多に本拠地を構える三代目福博会・坂元常雄組織委員長が務めた。業界内でも名高いこれらの組織が六代目山口組と友好的な関係にあることを、この盃ごとからもうかがい知ることができるといえるだろう。
一方、神戸山口組も、これらとは異なる他団体との親睦を深め続けている。日本最大のヤクザ組織である山口組の分裂は、他のヤクザ組織にも、どちらの陣営との関係性を深めるのかという選択を強いてきたわけだ。今回の分裂騒動は、ヤクザ社会全体に影響を及ぼす問題ということがここからもわかるのだ。
(文=沖田臥竜/作家)