神戸山口組の伝統ある二次団体に今、異変が起きている。同団体の本部事務所が売りに出されていると以前から業界内で噂になっていたのだが、1月下旬にある企業に売却されていたことがわかったのだ。さらに今月に入ってから、この組織で最高幹部の重職を務めていた人物が、組員数名と共に六代目山口組二次団体へと移籍していたのである。
「今回、神戸山口組系から移籍した最高幹部は、抗争事件で長期服役していたのだが、六代目山口組の分裂騒動で揺れ動いている最中に出所し、神戸山口組系二次団体で一線へと復帰を果たした人物。いうならば、その団体にとっては功労者となる。その幹部が六代目山口組系に移籍し、幹部らが所属していた本部事務所が売却された。内部で大きなことが起きていたのではないか」(業界関係者)
確かに、内部で異変が起きていた可能性はあるだろう。ただ本部事務所の売却については、別の見方も考えられる。それは、神戸山口組が1月に特定抗争指定暴力団に指定されたことに起因する。
特定抗争指定暴力団に指定されたと同時に、抗争の激化を防ぐために警戒地域が設けられた。警戒地域内では組員の活動は極端に制限され、地域内の組事務所については出入りすることすら許されない。実質、使用できなくなった組事務所に、以前のような重要性があるのだろうか。
使用しなくても、組事務所には維持費がかかる。もちろん、特定抗争指定暴力団の指定が解除されれば、使用可能になるだろうが、山口組分裂問題の解決なくして、それはあり得ない。現状を見た場合、指定対象となった六代目山口組と神戸山口組の対立が短期間で収束するとは思えない。いつ使えるようになるかわからない施設に対するコストは大きな負担だ。ヤクザ事情に詳しい専門家はこのように指摘している。
「これまで当たり前のように組事務所で開催されていた定例会などの行事が、特定抗争指定暴力団に指定されてからは、事務所で開催できなくなってきています。むろん、警戒地域内ではほかの施設などでも行えません。そうなった場合、合理的に必要ではないと判断せざるを得ない拠点も出てくる。今回の本部事務所の売却は、そうしたことも踏まえた上で売却に至ったのではないでしょうか」
現在の山口組を取り巻く環境は、たとえ警戒地域外であったとしても、以前のように堂々と組行事を開催するのは難しい状況になってきている。当局に目をつけられれば、そこが新たな警戒地域として指定されかねないからだ。そのため、会合や行事なども秘密裏に開催されることが多く、また組の関連施設では行わず、飲食店などの目立たない場所で行われているケースも出てきている。
六代目山口組と神戸山口組の対立は、特定抗争指定暴力団に指定されたことで膠着状態が続いているように見える。今回のように事務所売却のような、組織力低下を招く状況を生み出しているのも事実だ。だが、前述した通り、それが収束という出口に向かっているかといえば、そうは見えない。ヤクザは、法律とは異なる、組織の規律、極道としての矜持などのなかに存在している。それらを重んじた場合、また衝突が起き、抗争が激化したとしても、決しておかしくはない状況は続いていると考えるべきだろう。
(文=沖田臥竜/作家)