伝統的な景気刺激策vs.イノベーション
日本には、すでに実情に合わなくなっている古い仕組みや制度がいくつも残っている。そうしたシステムをなかなか変革することができなかった。それは、企業や国民など社会全体がチャレンジ精神に二の足を踏むカルチャーをつくってしまったことによる。政策当局など公共セクターに限らず、民間企業でも同じだ。具体的にいえば、政府は、これまで公共投資など伝統的な景気回復策に依存することが多かった。しかし、そうした政策の効果が限定的であることは明らかになっている。政治のリーダーシップは、早くそこから抜け出して変革を目指すスタンスを示さなければならない。
足元の日本企業の状況を概括すると、その多くが高い収益を上げる一方、資金を内部留保としてため込んでいる。経営者に話を聞くと、1990年代の大規模なバブル崩壊、2008年のリーマンショックなどを経験した結果、どうしても安全運転に傾く心理状況がある。
そうした企業家心理の結果、積極的な投資には二の足を踏み、内部留保を厚くして有事に備えるスタンスを鮮明にせざるを得ない。ただ、経営者がそうした防衛型のスタンスを取り続けると、リスクを伴うイノベーションに踏み出しにくくなる。特に、先進のAI(人工知能)やIoT(Internet of Things:モノとインターネットの融合)、さらにはロボットなどの分野で、ライバルの欧米、中国企業に後れを取ってしまう。
必要な先端分野への取り組み
AIなど先端分野でライバルの後塵を拝することになると、後から追いつくことはかなり難しい。そうなると、当該分野にいかにビジネスチャンスがあっても、そこに参戦すること自体を取らざるを得ないことも考えられる。それでは、日本経済全体の競争力が低下して、縮小均衡に向かわざるを得なくなる。
日本が抱える人口問題に関しても、「人口が減少するので経済が縮小する」との固定観念を持つことは適切ではない。人口が減少しても、経済活動が拡大するケースは過去にいくつもある。
1990年以降、スウェーデンやイタリアなどは労働力人口が減少した。しかし、それらの諸国ではいずれも、労働力の低下を生産性の上昇で補い経済成長を達成した。つまり、労働者ひとりあたりが生み出す付加価値を高めることで、経済を活性化することに成功したのである。わが国もそれと同じことができれば、人口減少・少子高齢化のマイナス面をカバーすることが可能だ。