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ツタヤ図書館以外にも民間委託で不正!委託料増額狙い貸出数水増、スタッフが大量貸出手続

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
ツタヤ図書館以外にも民間委託で不正!委託料増額狙い貸出数水増、スタッフが大量貸出手続の画像1多賀城市立図書館で導入された読書通帳機

 4月6日付当サイト記事『ツタヤ図書館、小中学校で実質的なTカード勧誘活動を展開…教師は説明受けず憤慨』において、宮城県多賀城市立図書館がリニューアルオープンするに際して導入した読書通帳について紹介した。

 読書通帳とは、図書館が発行する預金通帳スタイルの記録簿のことで、館内に設置された銀行の現金自動預け払い機(ATM)に似た機械にこの通帳を入れると、借りた本のタイトルが随時記録されるというもの。

 借りて読んだ本の一覧を記録できるようにすることで、読書の動機づけの一助とするのが目的だ。とりわけ子供たちの読書推進に効果的なツールとされている。

 多賀城市立図書館は、レンタル店「TSUTAYA」を全国展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する全国3番目の「ツタヤ図書館」である。前2例のツタヤ図書館同様、図書館利用カードにはTカード機能付きを取り入れているが、利用者の約9割はそのTカード機能付きを選択しているという。

 そのようななかで、多賀城市教育委員会は読書通帳を小中学校の教室で全児童・生徒に配布したのだが、事前説明などはなかったという。そのため、現場の教師から「何も知らない子供たちに、読書通帳をエサにして個人情報流出の不安があるTカードを作成させるのか」という怒りの声が上がっている。

 その後の取材で、読書通帳には借りて読んだ本を記録することで読書を習慣づける効果がある半面、使い方を一歩間違えるととんでもない弊害があることがわかった。

 読書通帳を日本で初めて導入したのは、山口県下関市の中央図書館である。同館では読書通帳制度が順調に成果を上げ現在も継続していると、全国紙をはじめとした各メディアで報道されている。

 ところが、市の管轄部署に問い合わせをしても、全国学校図書館協議会等で読書通帳の効果を詳しく検証した調査報告はなく、“現場の実感として”子供たちの読書意欲を高めるのに貢献していると評しているにすぎない。

読書通帳導入の失敗例

 一方で地元紙の長周新聞は2月、同館のケースを典型的な失敗例と指摘している。

 下関市では、2010年から、市立中央図書館を含む複合施設の管理運営を担う民間の事業者(9社による共同事業体)を指定管理者として選定して、そこに運営を全面的に任せた。

 市立中央図書館では、その初年度から読書通帳を導入したところ、効果はてきめん。貸出件数は前年の6万6173件から23万406件と、たった1年で3.5倍に増えた。貸出冊数も09年の29万4424冊から13年には95万7425冊へと、こちらは4年で3倍増。

 当初、誰もが読書通帳導入の効果だと解釈したが、そんな単純な話ではないことが次第にわかってきた。

 運営を担った指定管理者は、夏休みには、子供たち向けに「100冊読破チャレンジ」と名づけたキャンペーンを実施。ただでさえ、子供たちはゲーム感覚で、読書通帳に印字される冊数を増やすことだけに走りがちなところに、達成した生徒には記念品プレゼントというニンジンも用意されたのだから、効果が出ないはずがなかった。子供たちは、先を争うように自動貸出機を使って貸出手続きを済ませ、毎日読みもしない本を大量に借りては読書通帳機の前に長い列をつくる光景が繰り広げられた。

 そして、同じような光景がやがて大人たちにも広がっていった。読書通帳のページが一定数埋まった人に、併設されたカフェの割引券をプレゼントするなどの特典をつけ、運営者側は貸出実績を伸ばす方策を打ち出した。

 極めつきは、指定管理者である運営者の関連会社スタッフが、4・5階にある図書館で本を自動貸出機で大量に貸出手続きをして、読みもせずに借りた本をそのまま1階の返却ポストに放り込んでいく光景がたびたび目撃されたことだ。この事案は読書通帳と直接の関連性はないが、運営企業サイドが貸出冊数を増やすことのみに主眼を置いていることがよくわかる。読書をすることよりも、読書通帳にタイトルを印字することだけに血道を上げる子供たちをむしろ歓迎していると指摘されても否定できないだろう。

貸出冊数で委託料が増減

 いったい、なぜそんなことが行われたのか。

「契約時に『業者のモチベーションを上げるため』に、四半期ごとの貸出冊数の実績によって委託料が増減する変動単価の形式」

 長周新聞は、その背景についてこのように言及し、さらに指定管理者にとっては「本の貸出冊数だけが唯一小銭を稼げるポイントだった。それに一生懸命で、図書館がどっちを向こうと関係なかった」との関係者のコメントを紹介し、このように結論づけている。

「この5年間で上げた実績が、次の指定管理を受けるときや他の自治体に売り込むときの実績になることもあって、死活の利害をかけて貸出冊数なりの数字にこだわったようだ」(2月12日付長周新聞『図書館の役割否定した民営化』より)

 結局、民間企業に図書館の運営を任せたものの、指定管理者制度のもとでは図書館運営業務が効率的に機能していないと判断した下関市は、5年の期間が満了した昨年3月で指定管理者との契約を終了して市立中央図書館を直営に戻したという。

 長周新聞が指摘した内容について市の関係者に取材したが、異口同音に「知らない」と言う。議会でも議論された形跡はみつからず、市がこの事実を認定したかどうかも確認できない。

 ある市議会議員は「指定管理をやめて直営に戻したのは、民間企業では雇用の条件があまりよくなかったことが原因。ベテランの司書がことごとく退職してしまい、現場の業務に支障が出始めたために直営に戻したと聞いている」と話す。

 市関係者にあたっていくと、「確かに、そのような不正はありました。ただ、読書通帳そのものについては、子供たちの読書推進に効果があるとして続けられました」との証言が得られた。この人物は、こう続ける。

「利用者が増えれば指定管理者に対する評価が上がって、指定管理料も増えるということで、指定管理者に指定されている団体の幹部が、部下に無理矢理本を借りさせるということもあったようです」(市関係者)

民間委託を取りやめて市直営に戻した下関市

 さらに、司書が次々に退職した事情をこう明かす。

「指定管理者の団体の管理職が元自衛隊の人で、強い口調で部下に対してパワハラまがいのことを日常的に行っていました。指定管理者の団体は、図書館だけでなく生涯学習プラザという館全体を運営していて、5階建ての4階と5階が図書館なのですが、1階にカフェがあって、そこが忙しいときには図書館スタッフが応援に行かされるのです。図書館業務をやりたくて図書館で働いている人が、突然ウェイターやウェイトレスをやらされて、やる気が起きるわけありません。それで次々と人が辞めていったという事情もあったようです」(同)

 スタッフが辞めていった個々の事情はさておき、運営企業が組織ぐるみで貸出実績を水増ししたという衝撃的な事実は決して見過ごせないはずだが、この事件に関しては、ほかの地元メディアは、なぜか一様に沈黙している。この関係者によれば、直営に戻したのも、特定の不正行為の事実が認められたからではないという。

「指定管理の導入を決めたのは前市長です。現在の市長は、5年間指定管理者に任せてみたものの、いろいろと問題があったために方針転換したと話しています」(同)

 前出の記事を書いた長周新聞の記者にも連絡を取ってみたところ、こうコメントしてくれた。

「すべて関係者に直接取材して書いた記事ですので、内容には絶対の自信を持っています」

 読書通帳は、正しく活用すれば子供たちの読書意欲を引き出すきっかけになることは間違いない。しかし、ともすれば手段を目的と取り違えてしまい、ただ読書手帳に印字された本の冊数だけを競うゲームになりかねないという副作用を持っている。

 特に、民間企業が指定管理者となって運営を担っている図書館では、実績をアピールしたいがために、公共図書館本来の目的をおきざりにしたまま、必要以上に成果を求める傾向がある。その典型例が下関市のケースだといえる。

 ツタヤ図書館で初めて読書通帳を導入した多賀城市立図書館の場合、来館者年間120万人の目標を達成するために、同館のオープン前に行われた図書館利用カードの事前登録会において、併設のカフェや書店の無料券を大量に配布するなど、すでになりふり構わない勧誘行為が行われている。

 そもそも、ツタヤ図書館においては、佐賀県武雄市や神奈川県海老名市もそうであったように、併設されたカフェや書店利用者も含めて「図書館来館者」とカウントしていること自体が、実績データの粉飾ではないかと指摘されている。

 図書館とカフェなど民業部分のゾーニングを明確にしたと胸を張っている多賀城市でも、施設全体でのカウント方式を採用している。これは、意図的に数字を大きくみせているのではないかと思わざるを得ない。

 多賀城市の地元紙・河北新報の4月6日付記事によると、多賀城市立図書館が開業から15日間で10万人もの「入場者」があったことが、CCCによる集計でわかったという。「ビルには図書館のほか書店、カフェ、コンビニエンスストアが入居するため、単純に比較できないが」と前置きしながら、旧図書館の来館者数と比べて25倍にもなっていると褒め上げている。

 だが、CCCの集計方法に疑問を呈する声は多い。多賀城市当局は、利用実績データの信頼性を担保するために、第三者に監査させるなど、指定管理者の行き過ぎた行為に歯止めをかける方策を今のうちから講じておかないと、読書通帳を導入したのをきっかけに貸出実績粉飾の不正行為が起き、公共図書館本来の役割と使命を放棄してしまった下関市の二の舞いになりかねない。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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