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安倍首相私邸前で「もっと補償しろ」デモ…「ウイルスではなく奴等に殺される」悲痛な叫び

文=林克明/ジャーナリスト
安倍首相私邸前で「もっと補償しろ」デモ…「ウイルスではなく奴等に殺される」悲痛な叫びの画像1
安倍首相の私邸ちかくで「安倍辞めろ」と叫ぶデモ参加者たち。警察の阻止線の奥に安倍首相宅がある。麻生財務大臣の私邸も近い。

 陽射しが強くカラッと晴れた日曜日の午後。東京・渋谷区の神山町、富ヶ谷、松濤界隈はいつにも増して静かで穏やかだった。

 都内でも屈指の高級住宅街として知られるこれらの地区に、安倍晋三首相や麻生太郎財務大臣の私邸がある。

 4月26日午後3時50分頃、この住宅街に約60人のデモ隊が訪れ、シュプレヒコールをあげた。

「要請するなら補償しろ!」
「安倍はビンボーやってみろ!」
「麻生もビンボーやってみろ!」
「マスク2枚じゃ食えねぇぞ!」
「カビノマスクを着けてみろ!」

 新型コロナウイルス感染拡大を抑制するための自粛要請で仕事を失い、収入を失い、家を失いかけている人たちが、「休業補償しろ」と怒りの声をあげたのだ。

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 デモ隊は、安倍私邸のすぐそばまで到達すると、警察官が設置したバリケードの向こうにある安倍首相の私邸に向けて「安倍辞めろ!」の大合唱を何度も繰り返した。感染拡大防止のために、「自粛要請」という名の強制が進行し、生活苦で死にそうな人が激増している。そうしたなかで、仕事を失った女性や苦境にあえぐ現役大学生らが呼びかけたデモが初めて実施されたのは4月12日。この日は第2回目の行動だった。

給付金10万円では生きられない

 当日の午後2時半、「要請するならもっと補償しろ」デモのスピーチが、渋谷駅ハチ公前広場で始まった。人との接触を8割減らすのが外出自粛の目的だが、見た目には9割減と言ってもおかしくないほど人が少ない。

 デモの呼びかけ人のひとりである男子大学生がマイクを握った。

「4月12日に『自粛要請するなら補償しろ』と、初めてデモをやりました。そうして声を出して要求した結果、一人10万円の給付が決定されました。大学はオンライン授業になっていますが、全員がパソコンを持っているわけでなく、出費も重なります。

 年間100万円の学費も払えない。大学は学費を返してください。本来は世帯30万円とされていた給付が、ひとり10万円になりました。まだ給付されていないし、10万円1回きりでは食べていけません」

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 使い捨て手袋をマイクにかぶせアルコール消毒してから次の人に渡されるため、少し手間取ったが、続けて呼びかけの中心人物、ヒミコさんという女性がスピーチした。

「マスク2枚じゃ食えないぞと思っている人は大勢います。私自身も、仕事を失って生活苦の中、精神的にもとても苦しいです。もともとアルバイトで月収が10万円を割ることもあり、そこにコロナ災害が重なり、店を閉められて仕事を失いました。

 安倍さんや麻生さんは、月10万円で暮らしていけるのでしょうか。もっと補償してもらわないと、外に出て仕事しなければならない人が大勢です。

 コロナ(ウイルスが感染拡大する)前から非正規労働者は貯金もなく資産もありません。誰がこんな世の中にしたのか。派遣など非正規労働者を増やし、この社会にアンダークラス(労働者階級のさらに下の階層)をつくったすべての人に、私は怒りを向けています」

 ヒミコさんが言うように、今回のコロナショックで日本社会の姿が暴露されたと言っていい。格差社会を意図的につくってきた与党と政府、財界などのデタラメぶりがあらわになっているからだ。

現代版インパール作戦とアンダークラス

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 休業を求め外出規制する代わりに、手厚い金銭補償をするドイツ、フランス、イギリス、ニュージーランド、アメリカなどに比べ、「要請」という名の強制をするだけで補償しない日本政府は異常だ。

 第二次大戦中、食料を現地調達せよと、食料や物質の調達を確保しないまま兵士に作戦を命じ、膨大な数の兵士を死なせた“インパール作戦”と同じなのは、誰の目にも明らかだろう。

 検査数も抑え、自粛要請しても補償はほとんどしない日本政府と、それに追随するテレビ局や文化人の一部は、「欲しがりません、勝つまでは」との戦争中のスローガンを2020年の今、叫んでいるに等しい。

 こうした彼らの態度が、格差社会拡大による人々の分断を、いっそう強めている。上級国民や富裕層はもとより、中産階級や正規労働者までもが、その下のアンダークラスに対しては基本的に冷たい。

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 深刻なコロナ被害を受けるのは、アンダークラスや零細事業主、行き詰まった個人事業主である。彼らはなんとかして働かなければならない。

 休業してもぎりぎり暮らせる、あるいは給料が減っても雇用だけはしばらくなんとかなりそうなレベルの人たちのなかには、自粛期間中の今回のデモを誹謗中傷する向きもある。

 だが、アンダークラスや零細事業主は、デモ参加者たちのように「仕事しないと生活はムリ」「バイトがないと学生死ぬ」という状況であり、実際にコロナ経済苦境で自殺している人も出ているのだから、街頭デモだろうがなんだろうが「要請するなら補償しろ」と叫ぶしかないのだ。

 デモの参加者が持っていたプラカードが象徴的だった。

「このままではウイルスではなく奴等に殺される!!」

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(文=林克明/ジャーナリスト)

林克明/ジャーナリスト

林克明/ジャーナリスト

1960年長野市生まれ。業界誌記者を経て週刊現代記者。1995年1月からモスクワに移りチェチェン戦争を取材、96年12月帰国。第一作『カフカスの小さな国』で小学館ノンフィクション賞優秀賞受賞。『ジャーナリストの誕生』で週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。

 最新刊『ロシア・チェチェン戦争の628日~ウクライナ侵攻の原点を探る』(清談社Publico)、『増補版 プーチン政権の闇~チェチェンからウクライナへ』(高文研)
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