韓国国内に日本の安倍晋三首相を模したとされる像が設置され、日韓間で物議を醸している。
問題となっているのは、韓国北東部の江原道平昌にある「韓国自生植物園」が園内に設置した像だ。日韓間に横たわる従軍慰安婦問題を象徴する「少女像」の前に、両手をついてひざまずいて謝罪する男性の像が設置されている。
報道では、この植物園が韓国メディア向けに作成した広報文によると、この像は「永遠の贖罪」と名付けられたものであり、別名「謝罪する安倍像」で安倍首相がモデルになっているという。この植物園は8月11日に除幕式を行う予定だったが、韓国メディアの報道により保守系の団体から批判が相次いだため、式は中止になったという。現在、韓国と日本の双方から批判の声が上がっている状況のようだ。
同園の園長はJNN(ジャパン・ニュース・ネットワーク)の取材に対して「政治的な意図はない。反省できる機会を与えようとしただけだ」と答えており、共同通信の取材には「安倍首相を特定してつくったものではなく、謝罪する立場にあるすべての男性を象徴したものだ。少女の父親である可能性もある」と話している。
しかし、この前代未聞の事態に日本政府も不快感をあらわにしている。菅義偉内閣官房長官は7月28日の記者会見で、像が設置されたことに関して「そのようなことは国際儀礼上、許されない。仮に報道が事実であれば日韓関係に決定的な影響を与えることになる」「韓国側に対し、慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した日韓合意の着実な実施を引き続き強く求めていく」と述べている。
また、公明党の山口那津男代表も会見で「すでに日韓では政府間での合意がなされた上で対応してきた経過がある」「そうしたことを逆の方向で荒立てていくことは遺憾に思う」と指摘した。
これに対して、インターネット上では「政府は遺憾の表明だけでなく、何らかの具体的な動きを見せるべき」「一国の首相に対しての侮辱行為では?」「ヘイトを超えた挑発行為」「政治的意図があることは明らかで、外交上の大問題」といった声が上がっている。
「韓国はこれまでも国内やアメリカに慰安婦をモチーフにした少女像を建ててきており、日本のリベラル派の一部にも『慰安婦問題は日本の国際法違反』『安倍首相が訪韓して元慰安婦の女性に直接謝罪すべき』といった主張があることは確かです。しかし、そもそも慰安婦問題は1965年の『日韓請求権・経済協力協定』で『最終的かつ完全に解決済み』であり、さらに、2015年に締結された『日韓合意』で『最終的かつ不可逆的に解決』しています。
それにもかかわらず、韓国は元慰安婦の支援を目的に設立した『和解・癒やし財団』を日本の同意なしで勝手に解散させ、日本が拠出した10億円の予算も多くが宙に浮いているなど、国家間合意を無視する動きを続けてきました。
一方で、慰安婦問題は韓国の内政問題という認識が韓国国内にも広がってきており、そうした意識が今回の反発にもつながっているのではないでしょうか」(政治記者)
また、日韓間のもうひとつの火種となっているのが元徴用工問題だ。2018年10月に韓国大法院で日本企業に補償を命じる判決が出て以来、日韓関係は急激に悪化した。韓国では日本企業に不利な判決が続き、今後は差し押さえられた日本企業の資産が売却されるかどうかが焦点となっている。
そんな中、日本政府は報復措置の選択肢として、韓国を対象とした査証(ビザ)発給条件の厳格化や、駐韓大使の一時帰国などを検討していることが報じられた。
「日本は徴用工問題も日韓請求権協定で解決済みという認識であり、資産売却による現金化は、越えてはいけない“レッドライン”とみなされています。そのため、もし実行されれば、何らかの報復措置を取らざるを得ないでしょう。これは、近く行われるとされる選挙戦略にもかかわってくるため、政権運営上の大きなポイントになりそうです」(同)
戦後最悪とも言われる日韓関係に改善の兆しが見えるのは、まだまだ先のようだ。