新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う社会不安が増大している中、また一つ気になるニュースが日本国内で話題になっている。テレビ朝日のニュースサイト「テレ朝news」は4日、記事『中国で「新型ブニヤウイルス」7人死亡…60人が感染』を配信した。同内容のニュースは地上波でも流れた。記事では「『新型ブニヤウイルス』というウイルスに感染し、中国で7人が死亡していることが分かりました」(原文ママ)という内容だったのだが、多くのTwitterユーザーらは「新しい危険なウイルスが中国で発見された」と受け止めたようで、事態を不安視する声が相次いだ。
早速、新型ブニヤウイルスに関し、国境なき医師団に参加し発展途上国の風土病などに詳しい医師に関して意見を求めたところ、拍子抜けするような返答がかえってきた。
「え、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)のことでしょう? あのニュースは説明不足で、ちょっと誤解を招きますよ。日本でも西日本を中心にまれに発生しています。だいぶ前からある感染症です。国立感染症研究所にデータが載っていますよ。
重症化すると多臓器不全などを起こす病気なので、確かに注意は必要ですが、突然降って湧いた感染症というわけではありません。ワクチンはないので、ウイルスを媒介するダニに刺された時に注意をする必要はあります」
すでに2011年に同定されたウイルスだった
国立感染症研究所の「感染症情報」のデータベースにアクセスしてみたところ、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」に関して次のように解説されていた。以下、引用する。
「SFTSは2011年に中国の研究者らによって発表されたブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新しいウイルスによるダニ媒介性感染症である。2013年1月に国内で海外渡航歴のない方がSFTSに罹患していたことが初めて報告され、それ以降他にもSFTS患者が確認されるようになった」
つまり10年も前にすでにその存在が判明していたウイルスであり、13年には国内でも罹患者が出ていたというのだ。2020年5月27日現在の「感染症発生動向調査で届出られたSFTS症例の概要」によると、同調査で「これまでに517人の患者が報告されており、前回集計分(4月29日)からの報告数(遅れ報告を含む)の増加は10例だった。男女比はほぼ1:1で、届出時点の年齢中央値は75歳であった」という。
また13年以降の日本での発症時期を表すグラフもあり、夏の5~9月にかけて13年以降、継続的に患者が発生し続けていることがわかる。夏場は草が生い茂り、半袖などを着用する機会が多いことから、ウイルスを媒介するダニに食われる可能性が高い。予防策は「草藪に入る時は長そで、長ズボンを着用」ということだろうか。
確かに重症化リスクのあるウイルスであることに変わりはないが、少なくとも、同ウイルスの背景情報を解説する必要はなかったのだろうか。
(文=編集部)