中国が6月30日施行した「香港国家安全維持法」に伴う起訴者が出たことで、この法律に対する新たな懸念が明らかになった。同法で逮捕・拘留された場合、保釈請求が認められない可能性が指摘されている。
香港South china morning post紙が4日、記事『Hong Kong national security law: suspect’s release bid first test for city’s judges on defendant’s rights versus new legislation』でその懸念を示した。
同記事によると、国家安全維持法で起訴・拘留中のTong Ying-kit氏(23)の代理人Philip Dykes弁護士らが裁判所に保釈を申請することになった。国家安全維持法には、刑事訴訟法などに定めのある保釈の権利について明確に記されていない。そのため、「当局が拘留の法的根拠を示すことができない限り、弁護士は裁判官に依頼人の釈放を申請することができる」という同市内でこれまで適用されていた法律を根拠に申請することになったという。
これまで検察側は逃亡の危険があることや、証拠隠滅や目撃者が証言することを妨害する可能性を指摘し、保釈を拒否している。今回の申請で、市の裁判官が同市内の法律と、北京の中央政府から課せられた国家安全維持法との関係をどのように扱うかが注目されている。
「国家安全維持法は世界の法体系に対する挑戦」
国際人権NGO「ヒューマンライツウォッチ」(米・ニューヨーク)に協力する日本国内の法曹関係者は次のように話す。
「国家安全維持法の恐ろしい実態が、同法を適用した逮捕・起訴で次々に明らかになっています。この法律の最大の問題点は、今回の報道にある保釈に関する規定など被告人に対する権利が明確になっていないことです。その一方で、当局が恣意的かつ無制限に被告人の生殺与奪を管理できてしまうようになっています。これは法律の解釈論争以前の問題です。支配者による『お触れ』程度の意味しかなく、もはや法律とはいえません。
法治国家という社会のあり方と、各国民が持つ基本的な人権は、これまで多くの血を流しながら人類が勝ち取ってきたものです。中国の一連の行為は、数百年にわたって多くの人々が積み重ねてきた世界の法体系に対する挑戦だと思います。内政干渉の一言で国際世論の声を黙殺するのではなく、世界をリードする文明国として襟を正すべきだと思います」
事態を重く見たヒューマンライツウォッチは7月31日、日本を含む世界40カ国の外交当局に向け、国家安全維持法の拒絶や香港市民の人権擁護、同法責任者に限定した制裁を課すことなどを求めた公開共同書簡を送付している。
(文=編集部)