ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 中国・三峡ダム、決壊で被災者6億人
NEW
浜田和幸「日本人のサバイバルのために」

中国・三峡ダム、「人類史上最も悲惨なダム決壊事故」の危険…被災者6億人、工業地帯水没

文=浜田和幸/国際政治経済学者
中国・三峡ダム、「人類史上最も悲惨なダム決壊事故」の危険…被災者6億人、工業地帯水没の画像1
三峡ダム(「Wikipedia」より/Centpacrr)

 このところ、世界でも日本でも新型コロナウイルスの感染者は増える一方である。しかし、それと歩調を合わせるかのように自然災害も猛威を振るっている。世界最悪の感染者数に見舞われているアメリカであるが、テキサス州やフロリダ州など南部一帯では例年をはるかに上回る勢いでハリケーンが猛威を振るい、アラスカ州では巨大な地震が相次ぎ、ハワイ州でも洪水が発生するといった有様だ。

 白人警察官によって黒人が首を押さえつけられ殺害された事件によって全米各地で人種差別撤廃を求めるデモや破壊行為が急増するアメリカであるが、「コロナ禍、自然災害、人種問題、そして3人に1人が失業という雇用危機」と、まさに4重苦に襲われているといっても過言ではないだろう。

 それと比べれば、日本はまだ救われているといえるかもしれない。それでも九州、中部、東北地方など各地で豪雨被害や土砂災害が連続しており、安倍首相は甚大な被害に見舞われた熊本県を視察し、災害復旧のために4000億円を超える予算を投入すると宣言した。しかし、新型コロナウイルスが終息しない状況下で観光産業を支援すると称して「Go Toキャンペーン」が始まったため、「かえって感染が拡大するのでは」といった危惧が深まる状況が続いている。

 にもかかわらず、安倍首相からは国民が納得、安心できるようなコロナ対策に関する説明が一向に打ち出されていない。PCR検査も希望者が急増しているにもかかわらず、十分な対応がなされないままである。それどころか、政府と東京都や大阪府の間で責任のなすり合いが繰り返されるような状況が続いている。これでは事態は悪化の一途を免れないだろう。

 とはいえ、コロナ禍や自然災害の脅威にさらされているのは日本だけではない。アメリカに限らず、5月以降は世界各地で大雨による洪水が発生し、かつてないほどの広範囲にわたり大きな被害が報告されているからだ。

 たとえば、新型コロナウイルスの発生源と目される武漢を抱える中国では443の河川が氾濫し、そのうち33の河川では過去最高の水位を記録。すでに数千万人が避難を余儀なくされている。大半の河川は中国最大、最長の揚子江の支流である。問題は後に述べるが、その揚子江に建設された「世界最大を誇る三峡ダムが決壊するのではないか」と危惧されていることだ。

「世界最大のダム王国」

 実は、中国には10万基近いダムが建設されている。世界でもっとも多くのダムを保有しているわけで、「世界最大のダム王国」といっても過言ではない。とはいえ、三峡ダムのような巨大なものは例外で、97%のダムは貯水容量が1000万立方メートル以下の小型ダムである。揚子江に限らず、黄河や淮河などの支流にも数多くのダムが建造されている。

 しかも、これらの小型ダムの大半は1950年代から70年代にかけて、人口増加に伴う農業生産を支える水利目的で建造されたもの。「大躍進」時代の産物にほかならない。さらにいえば、当時のダム建造技術は低レベルであり、財政的な制約もあり、大部分のダムは土や石を積み上げただけの小規模なもの。「寿命は50年」といわれており、すでにほとんどすべてが耐用年数をはるかに超えている。要は、5000基ほどのダムはいつ決壊してもおかしくない状況にあるわけだ。

 毛沢東主席による「自力更生」の掛け声で建造されたものだが、やはりすでに3500基のダムはこれまでの大雨で決壊してしまった。旧ソ連の支援で1952年に完成した黄河上流のダムは1975年の洪水で決壊し、「人類史上最も悲惨なダム決壊事故」として記録されている。数十万人の死者が出たが、当時はその事故は隠蔽され、その事実が明らかになったのは20年以上の月日がたってからのことだった。

 こうした事態を受け、当然のことながら、中央政府はダム補修工事を進めているが、地方自治体レベルでは資金や人材不足もあり、危険除去や補強作業は後回しにされてきた。実際、1998年には4000人以上が命を落とし、数百万人が住む家を失うという大洪水が発生した。その原因は「森林の伐採」と「土壌の浸食」といわれたものだ。そのため、急遽、中国政府は揚子江上流での森林伐採を禁止し、再植林計画を発動することになった。

 ダムが決壊すれば、農地は水没し、農作物の収穫はゼロになってしまう。中国にとっては水との戦いは食料確保の戦いでもある。そんな「水と食の戦い」の経験を活かし、中国はアフリカの国々にダム建造というインフラ整備を推進している。しかし、自国内で発生する豪雨やダムの決壊という危機的状況に対して、十分な対応ができていないこともあり、アフリカ諸国からは中国によるダム援助プロジェクトに対して懸念する声が上がり始めた。

世界中で豪雨被害

 他方、中国とは国境を接するベトナムでも巨大台風や地球温暖化が原因と目される海面上昇による経済的損害が増え続け、すでにGDPの1.5%が奪われている。これまで、南シナ海の権益をめぐり対立を繰り返してきた中国とベトナムであるが、今年7月以降、自然災害への対応や危機管理面での共同事業を推進することで新たな合意を形成する動きが出てきた。災害への危機感が対立する両国を歩み寄らせるきっかけをもたらした感がある。まさに「禍を転じて福と為す」となるものかどうか。対立する両国の今後の動きが注目される。シンガポールやインドネシアでも大雨の被害が報告されている。

 さらに、南アジアに目を向けると、バングラデシュでは国土の3分の1が水没してしまった。例年6月から9月にかけてはモンスーンの季節といわれるが、今年は雨量が半端なく多い。隣国のインドでもこれまでにない規模の洪水が襲い掛かっている。ユネスコの世界遺産に認定されているアッサム州にあるカジランガ自然公園では85%が水没し、サイなど多くの野生動物が命を失った。

 バングラデシュに流れる230の河川の内、53はインドとの国境線を形成しており、源流となるヒマラヤ山脈から流れ出るブラマプトラ河とガンジス河は両国内を横断する。こうした大小数多くの河川が氾濫したため、400万人が住む家を失ってしまった。また、インドの北部に位置するネパールでも大雨の影響で土砂崩れが相次ぎ、多数の人命が失われている。

 被害にあっているのはアジアだけではない。北米のカナダやアメリカ北部でも6月だけで23億ドルの被害が発生している。アメリカでは南部を中心にハリケーンが猛威を振るい、6億5000万ドルを超える経済的損失が発生。中米から南米ブラジル、ペルーやチリにまで大雨が降り続いているのである。

 その上、ヨーロッパでも被害は拡大する一方となっている。フランス、ドイツ、チェコ、ポーランド、オーストリア、ハンガリー、ウクライナと洪水は広がり、2万2000棟以上の建築物が飲み込まれてしまった。被害総額は1億5000万ドルを超える。ロシアでも「100年に一度」の大洪水が毎年のように発生するようになった。さらには、南半球のニュージーランドでも「500年に一度」と形容される程の深刻な被害が発生している。

中国が迫られる究極の選択

 このように世界各地で大雨による洪水被害が同時に発生しているのは前代未聞のこと。なかでも中国の状況は世界の株価にも影響を及ぼし始めており、習近平政権にとっては深刻である。アメリカとの貿易戦争やコロナウイルスの発生源をめぐっての非難の応酬合戦が続く中国であるが、世界最大の水力発電ダムである三峡ダムが決壊の危機に瀕していることは看過できないだろう。

 何しろ6月半ばの梅雨入り以降、中国の南部と西南部では、今日まで大雨と集中豪雨が続き、多くの河川が氾濫。その結果、31ある省の内、26もの省で洪水が発生。被災者は3800万人を突破。224万人近くが緊急避難を余儀なくされている。経済的な損失は5000億円近いといわれる。中国最大の淡水湖である八陽湖(江西省)では水位が23メートルに上昇し、警戒水位の20メートルを軽く突破してしまった。中国政府は人民解放軍の部隊10万人を投入し、人命救助や堤防増強工事に当たらせているが、焼け石に水といった状況のようだ。

 そうしたなか、「揚子江中流に位置する三峡ダムが大量の雨水の圧力で決壊するのでは」との危惧が出てきたのである。建設中から「汚職の巣窟」とまで揶揄されたダムであり、使用されたコンクリートや鉄骨なども不良品が多く、完成直後であるにもかかわらず随所に亀裂が確認されたほどだった。ワイロが横行し、環境保全や下流域の安全対策はないがしろにされたのではないかとの批判が当時から渦巻いていた。

 万が一、ダムが決壊すれば、約30億立方メートルの濁流が下流域を飲み込むことになる。4億人から6億人もの被災者が出るとの予測もあるほどだ。安徽省、江西省、浙江省などの穀倉地帯は水没の危機に瀕する。河口には上海が位置するが、その都市機能は壊滅的な被害を受けることになるだろう。上海に限らず、流域に位置する重慶や武漢などの経済、工業地帯には日本企業も多数進出しており、コロナ禍以上にサプライチェーンが寸断されることにもなりかねない。

 と同時に、中国国内で問題視されるようになったのが、「ダムによる地震の誘発現象」である。これまでもダム建設による環境破壊が懸念されてきた。しかし、2008年に発生した四川大地震によって10万人近い犠牲者が出たことをきっかけに、中国の科学者たちが調査を進めた結果、「大地震の原因は四川省内の活断層の近くに新設されたダム」との結論に至ったからである。大型ダムの貯水による重みが地殻に深刻な圧力をかけたことが原因と見なされ、専門家の間では「ダム誘発地震」と呼ばれるようになった。

 さらに深刻な懸念は、揚子江流域に存在する原子力発電所への影響であろう。放射能汚染の恐れは福島原発事故の比ではない。こうしたリスクを抱えた三峡ダムを決壊させないで済むにはどうすればいいのか。現在、ダムの上流でも下流でも洪水が発生しているため、ダムを放水すれば下流域の洪水は拡大してしまう。かといって、放水しなければダムの決壊は秒読み段階に入る。中国は究極ともいえる苦渋の選択を迫られているといっても過言ではない。

洪水資源の有効活用

 このように中国はじめ世界で頻発する大雨や洪水であるが、視点を切り替えれば、今後の課題は「洪水資源の有効活用」である。特に中国の場合は河川流量の洪水期に60%以上が集中している。それが、洪水ピーク流量と水量が大き過ぎるので有効活用ができないどころか、洪水被害を拡大させるままで、「手の施しようがない」と言われる所以だった。

 しかしダムや堤防などの安全対策が達成されれば、乾季に発生する深刻な水不足に対しても有効な対策になることは間違いない。実際、2001年以降、中国各地では水利委員会が中心となり、毎年発生する洪水の貯留施設の建設に取り組み始めている。多くの中小ダムでは洪水期の制限水位を合理的に引き上げ、貯水容量の増加に努めてきた。しかし、大方の想定を上回る大雨が引き起こした洪水によって、こうしたダムも効果を発揮することができない状況が続いている。であればこそ、状況の改善と強化を早急に進めるべき時が来ている。

 中国の第1四半期のGDPは6.8%の減少で、1976年以来初めてのマイナス成長となった。世界経済の牽引車であった中国がこうした危機的状況に直面しているわけで、トランプ大統領がこのところ「南シナ海」「ファーウェイの5G」「香港」等の問題にからめて、総領事館の閉鎖など中国に対してこれまでにない強硬な姿勢を見せるようになったのも、その背景にはこうした自然災害で苦境に陥る中国を相手に自国の国益を追求しようとする思惑が隠されているに違いない。

 しかし、自然の猛威にさらされているのはアメリカも同じこと。トランプ大統領は地球温暖化を認めようとせず、早々とパリ協定からも離脱してしまった。と同時に、気象改変兵器の研究には潤沢な資金を投入している。国防総省がアラスカに構えるHAARPの研究施設では米空軍が中心となり「台風、地震、洪水、干ばつ」を人工的に発生させる軍事技術の開発が進んでいる模様だ。

 ところで、このところの激しい雨の降り方や洪水の発生状況を見れば、自然発生的なものとはいいがたいようにも思える。やはり人間による傲慢な自然破壊に対する地球からの警告なのであろうか。いずれにせよ、われわれの日常生活はコロナウイルスと集中豪雨によって耐久力や復元力が試されているに違いない。覚悟を決めて向き合わねば、人類も地球も消滅する道をたどることになるだろう。「東京問題」とか「Go Toキャンペーン」で右往左往しているときではないことは論を待たない。すべての国、都市、企業、団体、個人も価値観を見直す「最後の機会」という覚悟が必要であろう。

(文=浜田和幸/国際政治経済学者)

浜田和幸/国際政治経済学者

浜田和幸/国際政治経済学者

国際政治経済学者。前参議院議員、元総務大臣・外務大臣政務官。2020東京オリンピック招致委員。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士

中国・三峡ダム、「人類史上最も悲惨なダム決壊事故」の危険…被災者6億人、工業地帯水没のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!