南シナ海をめぐる中国軍の活動が活発化している。共同通信は3日、北京発の記事『中国軍、東沙諸島奪取演習を明言』を配信。「中国人民解放軍国防大学の李大光教授は香港の親中系雑誌『紫荊』8月号に発表した寄稿で、中国軍は8月に南シナ海で、台湾が実効支配する東沙諸島の奪取を目標とする大規模な上陸演習を行うと指摘した。実施の具体的な時期や場所については明示していない」としている。
南シナ海に浮かぶ東沙島は1.74平方キロメートルの小さな島だ。中国大陸から200km、香港から南東方向330kmの位置にあり、台湾海峡とバシー海峡に面する重要な戦略拠点と位置付けられている。1939年に当時日本統治下にあった南シナ海の島々と同じく、台湾の高雄市に組み込まれ、1949年に中華人民共和国が立ち上がってからは台湾政府の実効支配下にある。中国政府はこれまでも、日本の尖閣諸島と同様、東沙諸島への圧力を強めてきた。
防衛研専門家「大型ホバークラフト動員の大規模なもの」と推測
日本の防衛省防衛研究所が今年6月16日に公開した門間理良地域研究部長のコメンタリー『緊迫化する台湾本島周辺情勢2-高まるバシー海峡・東沙島の地政学的重要性-』(NIDS コメンタリー第 124 号)では、中国軍による同島への上陸演習に関して言及。純軍事的な観点から次のように分析していた。
「中国軍が8月に海南島沖の南シナ海で、東沙島奪取を想定した大規模な上陸演習を計画しているとの報道もあった。もしそのような演習を実施するとしたら海軍陸戦隊を主体にして南海艦隊の071ドック揚陸艦、Z8ヘリコプター、大型ホバークラフトなどを動員した本格的なものになるだろう。
しかしながら、台湾が東沙島に配備している武器は、20ミリ機関砲、40 ミリ機関砲、81ミリ迫撃砲、120ミリ迫撃砲と携行式の対戦車ロケット程度であり、守備部隊は海軍陸戦隊が訓練を施しているとはいえ法執行機関である海巡署の要員であること、台湾より中国の方が東沙島への距離上のアドバンテージがあること、東沙島の標高は最も高いところでわずか7mに過ぎず面積も狭いこと(東西に約2800m、南北に865m)などから、飛行場や埠頭の破壊を行い、中国の制空権に収めてしまえば台湾軍の補給も続かず、東沙島はほどなく陥落すると考えられる」
一方で、同コメンタリーでは東沙島の戦略的な重要性に触れつつ、同島を実際に中国軍が占領すること以上に、台湾海峡とバシー海峡での軍事的なアドバンテージを獲得することに警戒感を示し、次のようにまとめた。
「中国にとって東沙島とバシー海峡の重要性は大きく増しているが、台湾が東沙島に十分な軍事力を配備していない現状では、中国が世界の批判を受けながらも島を奪取する可能性は高くないだろう。しかし、仮に台湾軍なり米軍なりが東沙島に軍を駐留させる方向に動けば、同島奪取に向かう可能性も出てくる」
アメリカのポンペイオ国務長官は7月13日、南シナ海をめぐる声明を出し、当事国どうしで領有権争いの解決を促してきたこれまでの立場を転換し、中国が南シナ海のほぼ全域の権益を主張するのは「完全に違法だ」という立場を表明した。それに先立ち、米軍は7月4日、南シナ海周辺に原子力空母2隻を中心とする機動部隊を展開して訓練を実施。その後も部隊はフィリピン海などで各種訓練を続けているとみられる。
日本政府関係者は「米大統領選が終わるまでは、大きな動きはない。両国とも外交上のデモンストレーションの一環だ」との見解を示しているが、両軍の訓練中に偶発的な戦闘が発生する可能性は否定できない。南シナ海での緊張が高まれば、尖閣諸島のある東シナ海も同様に高まる。情勢を注視する必要があるだろう。
(文=編集部)