昨年8月に公開された劇場アニメ『君の名は。』。公開から9カ月が過ぎてもなお一部で公開が続いているが、さすがに興行収入は落ち着いてきており、最終的な興行収入は249億~250億円程度でまとまりそう。これは日本アニメ映画歴代2位、日本で公開された映画としては歴代4位(1位から『千と千尋の神隠し』:308億円、『タイタニック』:262億円、『アナと雪の女王』:255億円)。
16年の劇場アニメでは、超ヒットとなった『君の名は。』以外にも、『聲の形』(23億円)や『この世界の片隅に』(25億円)も小規模公開ながらヒット作が多く、中にはわずか14館での公開ながら、SNS上の口コミなどで話題となり、約8億円のヒットとなった『KING OF PRISM by PrettyRhythm』といった作品もあり、『ドラえもん』や『名探偵コナン』、『クレヨンしんちゃん』といった定番劇場アニメ以外でもヒット作が多かった。
一般メディア、経済系メディアでも『君の名は。』や『この世界の片隅に』はよく取り上げられ、「なぜこれほどヒットしたのか?」をそれぞれ探ってみたり(SNSの口コミ効果を取り上げた記事が多かった印象)、“経済効果”について語ってみたり(“聖地巡礼”など波及効果について解説する記事も)、とにかく各地でよく話題となった。
そんな『君の名は。』や、劇場アニメではないが『シン・ゴジラ』の大ヒットで、今年4月14日に発表した東宝の17年2月期連結決算は売上高が前期比1.8%増の2,335億円、純利益が28.7%増の332億円となり、いずれも過去最高を記録。
アニメファン、映画ファンや配給会社や制作会社のみならず、ちょっと映画が好きというライト層もビジネスマンも「17年も『君の名は。』みたいに大ヒットする映画はあるの?」とおおいに期待していることであろう。春休み、ゴールデンウィークも終わり、6月は公開開始となる作品も少ない。映画公開カレンダー的には、本数だけでいえば折り返し地点に近いと思われるので、ここで17年前半の劇場アニメをざっくりと振り返ってみたい。
まず各週の「週末興行収入ランキング」で首位になったアニメ作品から。
・2月18、19日 『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』
・3月4、5日 『ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』
・3月18、19日 『SING/シング』
(※『SING/シング』はここから4月8、9日週まで4週連続首位)
・4月15、16日 『名探偵コナン から紅の恋歌』
『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』は、川原礫が描いた人気ライトノベルを原作に、2度のTVアニメシリーズ放送を経てから公開された劇場オリジナルアニメ。公開から約3カ月の5月24日時点で国内の観客動員数約175万人、興行収入25億円を突破。これは深夜TVアニメ発の劇場アニメとしては『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』や『ガールズ&パンツァー 劇場版』を上回る好成績だ。
『ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』も公開開始から1カ月半後の4月16日に興行収入41億4,000万円をマークし、声優陣が一挙に交代となった05年以降では歴代最高記録を更新(新キャストの劇場版公開は06年より)。さらに『名探偵コナン から紅の恋歌』は5月27、28日で累計興収は63億5,090万2,500円となり、劇場版『名探偵コナン』シリーズ第21作目にして歴代最高記録を更新している。なお『名探偵コナン から紅の恋歌』は、日本で公開された映画の歴代興行収入ランキングベスト100位入り(99位)も果たしている。
また、その『名探偵コナン から紅の恋歌』と同日の4月15日公開だったため目立たなかったが、『映画 クレヨンしんちゃん 襲来!! 宇宙人シリリ』も初週末の2日間で約3億2989万円、GW明けの5月7日時点で13億1,800万円とまずまずの成績を残している。
――と、ここまでまとめると17年も劇場アニメは好調! のように見えるが、取り上げてきたのは『名探偵コナン』『ドラえもん』のように数十年に渡り展開を続けてきた定番人気シリーズであったり、原作のライトノベルがシリーズ累計1,300万部を発行、深夜TVアニメとしてしっかりと人気を積み上げてきた『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』であったりで、ある程度以上のヒットが公開前から見込める作品ばかり。
『君の名は。』のようなオリジナル作品、あるいは『この世界の片隅に』や『聲の形』のようなTVアニメ化を挟まない劇場アニメで、“大ヒット”と謳える作品は実はそう多くない。
たとえば『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ、『東のエデン』シリーズなどで知られる神山健治が監督・脚本を務めた劇場オリジナルアニメ『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』は3月18、19日の、初週末の興行成績では9位。3連休の3月18、19、20日の3日間で動員12万6,200人、興収1億6,250万円と、そう悪くない数字に見えるが、2週目からはランキング外となってしまった。劇場オリジナルアニメとしては比較的大規模な200館以上での公開であったことを考えると、やや物足りない数字かもしれない。
またTVアニメ『四畳半神話大系』や『ピンポン』で知られる湯浅政明のオリジナル作品『夜明け告げるルーのうた』も、全国100館ちょっとという小規模公開とはいえ、初週末興行収入でベスト10入りもならずとなかなかの苦戦ぶり。
湯浅監督作品は、『四畳半神話大系』と同じ森見登美彦の小説を原作とした劇場アニメ『夜は短し歩けよ乙女』も4月7日に公開を迎えている。W主人公の一人“先輩”役を星野源が演じることでも話題となったが、初週末興行収入ランキングは7位と健闘したものの、やはり2週目からはランキング外となってしまっている。
オリジナル作品、あるいはTVアニメ化を挟まない劇場アニメが大ヒットとなるのは難しく、ましてや宮崎駿が監督を務めるジブリ作品や『君の名は。』のような超ヒット作は、やはりそう簡単には誕生しないものなのだ。
とはいえ、今夏は監督がスタジオジブリ出身で、『借りぐらしのアリエッティ』(10年)、『思い出のマーニー』(14年)の米林宏昌、プロデューサーも元スタジオジブリで、『かぐや姫の物語』(13年)、『思い出のマーニー』でプロデューサーを務めた西村義明による新作劇場アニメ『メアリと魔女の花』(7月8日公開)。そして『魔法少女まどか☆マギカ』シリーズを手掛けた新房昭之が総監督、プロデューサーを細田守監督作品や『君の名は。』の川村元気が務める『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(原作:岩井俊二/8月18日公開)といった、楽しみな作品が公開を控えている。どんな数字を残すのか注目したい。
なお、劇場アニメを一から制作しようと思えば、通常2~3年ぐらいの時間がかかる。普通に考えれば『君の名は。』を意識したような、「二匹目の泥鰌」を狙ったような作品が世の中に登場してくるのは来年夏以降になるだろう。実写作品ならもっと時期が早いかもしれないが、どの作品が『君の名は。』の影響を受けた作品なのか、想像・推理してみると楽しいかもしれない。
(文=編集部)