新型コロナウイルスの感染拡大による影響が直撃しているテレビ業界が、激変を余儀なくされている。“アフターコロナ”の時代には何が残るのか? それとも何も残らないのか? まずは、混乱している現状をおさらいしてみよう。
あの『恋つづ』も再放送では視聴率“爆死”
今、どの番組を見ても「特別編」などと称され、総集編で間に合わせたり、直近まで同じクールで放送されていた番組を再放送したりして対応している。
ちなみに、TBSの火曜ドラマ枠は、本来なら多部未華子主演の『私の家政夫ナギサさん』がオンエアされているはずなのだが、撮影スケジュールの遅れにより放送が延期されている。そのため、同枠では、3月までオンエアされていた『恋はつづくよどこまでも』のダイジェスト版が放送されている。
4月21日にオンエアされた『恋つづ』は第7話に未公開カットを加えたものだったが、その視聴率は8.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と、やや期待外れに終わった。
「この7話が最初に放送されたのは、2月25日。当時は視聴率11.9%を記録し、ドラマの人気もどんどん上がっていった頃です。そして、最終的には“恋つづロス”なる現象まで生まれたわけですが、わずか2カ月後にもう一度同じものを見せられても、数字は見込めないということでしょう」(テレビ局関係者)
苦肉の策で「副音声」の解説が急増
“付け焼刃”の対応は、それだけではない。新川優愛主演のドラマ『ギルティ ~この恋は罪ですか?~』(日本テレビ系)は4月16日で第3話までの放送が終了したが、第4話以降の放送が延期となった。そのため、4月23日からは3週連続で過去3話分を再放送する。「特別編」として、新川らキャストのメッセージ入り再編集版で、副音声ではオーディオ・コメンタリーで裏話も披露されるという。
副音声を行うのはドラマだけではない。4月に特番からゴールデンタイムのレギュラーに昇格したバラエティ番組『有吉の壁』(日本テレビ系)は、もはやストックがないのか、4月22日は過去の特番時代に日光江戸村を舞台に繰り広げられた「おもしろ江戸の人選手権」が放送された。そこでも、有吉弘行や佐藤栞里らが副音声で解説していた。
「ただ、副音声は“たまに”だからありがたみがあるのです。この付け焼刃も、いつまでも通用はしないのではないでしょうか」(同)
『ぐるナイ』の“ゴチバトル”も初のリモートに
現在、増えているリモート出演を逆手に取り、楽しんでしまう番組も増えているという。
「4月18日放送の『王様のブランチ』(TBS系)は一部の出演者に加え、なんとまったく見たこともない素人(番組視聴者)も自宅からリモート出演していました。同じくリモート出演のタレントたちと一緒にVTRを見るという、奇妙な試みがなされていたのです。
また、4月19日放送の『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)では、内村光良を除くレギュラー出演者はそれぞれ自宅からの中継で出演。ただ、テレビ電話ではなく、あえて単なる“電話出演”にして、それぞれの音声をLINEのトーク画面のようにテンポよく表示する工夫をしていました」(同)
4月30日に放送される『ぐるぐるナインティナイン2時間SP』(同)の「ゴチになります!」も、史上初のリモートワークでバトルを展開するという。すでにナインティナイン・岡村隆史がラジオ番組『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)で明かしているが、それぞれのチャレンジャーのもとに絶品グルメがデリバリーされ、いつもと同じように金額を予想する。いったい、どんなテレビ画面になるのか楽しみである。
「また、今後は『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)などのスペシャル番組でも、リモートワークによる大喜利が見られるかもしれないし、さらに言えば、今春は中止となった『オールスター感謝祭』(TBS系)も、約200人の参加者がそれぞれの自宅から中継をつないでクイズに参加するという考えがあってもいいのではないでしょうか。もちろん、芸能人がリアルな自宅を見せるかどうかは別ですが……」(同)
ダチョウ倶楽部の“伝統芸”や漫才も自粛危機?
『奇跡体験!アンビリバボー』(フジテレビ系)や『ザ!世界仰天ニュース』(日本テレビ系)といった再現ロケ系の番組も「3密」(密集、密室、密接)の危険性があり、成立させるのが難しくなってきた。続行するには、キャスト1人ずつを隔離した状態で別撮りにし、合成するしか道はないのだろうか。
また、前出のテレビ局関係者は以下のように語る。
「出川哲朗とダチョウ倶楽部・上島竜兵によるお決まりの“キス芸”や、ダチョウ倶楽部の“おでん芸”なども、『人との距離を取る』ことが推奨されている今は難しいでしょう。さすがに、感染症の前では『プロなので大丈夫』というわけにもいかないですからね。
また、『相手と2m離れる』『大声で会話しない』などが求められていることで、『漫才』も自粛せざるを得ない可能性があります。近距離で密接なやり取りをするからこそ、あの絶妙な間が生まれるわけですが、今後はボケとツッコミがリモートワークで漫才を成立させる時代が来るのでしょうか」(同)
アニメが復権する可能性も
ドラマもバラエティも難しいということで、その影響が意外なところに出てくる可能性もあるという。
「番組で人と人との接触が現実的に難しいとなると、アニメが増えるかもしれません。その声優を、俳優や女優、芸人などが務めるのです。もっとも、声優のアフレコ現場も“3密”と言われています。リモートで吹き替えができる体制が整えば可能かもしれませんが、微妙な掛け合いなどはお互いが隣にいないとできないのがネックです。ただ、今はゴールデンタイムにほぼ皆無のアニメが、この機会に復権する可能性も大いに秘めています」(同)
“大衆化”するYouTuberは飽きられる時代に?
また、新型コロナの影響で仕事が減少した俳優や芸人など、芸能人が続々とYouTubeに進出している。
「かつて、博多華丸・大吉の華丸が『THE MANZAI 2014』(フジテレビ系)で披露した漫才の中で『YouTuberになりたい』と言い放ち、笑いを誘っていたのも今は昔。これまでは特別で憧れだった場所が、今度は逆に『一般化』『大衆化』してしまい、すぐに飽きられてしまう可能性も出てくるでしょう」(同)
最後に、このテレビ局関係者は、コロナ・ショックに揺れるテレビ業界についてこう警鐘を鳴らす。
「在宅時間が増えている今こそテレビ復権のチャンスだというのに、テレビマンはとにかくこの事態が過ぎ去るのを待ち、漫然と『総集編』を垂れ流すのみ。『ステイ ホーム』は大前提として、そんな中でも、仕事にあぶれた芸人や俳優をなんとかテレビに出し、活性化させることが、テレビ業界の今後を左右するのではないでしょうか」(同)
いずれにしても、テレビマンが局のしがらみを超えて一致団結し、立ち上がらなければならないときが、すぐそこまで来ているようだ。
(文=編集部)