テレビ番組制作会社の今年の倒産がすでに14件に達し、過去10年間で最多を更新したことが東京商工リサーチの調べで分かった。番組制作発注元のテレビ局がコロナ禍で収入が落ち込み、そのしわ寄せを受けるかたちで経営危機が顕在化した。識者は「テレビ局に依存する経営体質を見直す時期にきている」と指摘している。
東京商工リサーチによると、制作会社の今年の倒産は9月までの9カ月間で、2014年以降の10年間で最も多かった2018年の13件を超えた。前年(22年)同期(6件)の2.3倍のペースで増えている。倒産は小規模事業所が多く、14件のうち11件(全体の78.5%)が資本金1000万円未満で、代表者を含めた従業員も数人にとどまる零細企業が目立った。負債も5000万円未満が12件(85.7%)を占めている。都道府県別では、東京都が11件(78.5%)で最多で、大阪府2件、愛知県1件と続き、キー局や大規模地方局の集まる大都市圏に集中している。業態では、旅番組やグルメ番組、街歩きなど比較的少額予算の番組を請け負う企業が顕著になっている。
原因について、商工リサーチは「コロナ禍の当初は、緊急事態宣言の発令による外出自粛などで番組制作の中止や延期を余儀なくされ、制作会社の業績に大きく影響した」と分析。「長引く受注減に加え、制作コストや人件費の上昇から、小規模の制作会社を中心に倒産は今後も高い水準で推移する可能性が高い」と見ている。
フリーのテレビプロデューサーは制作会社の置かれた状況を次のように語る。
「経営悪化で若いスタッフを中心に離職が相次ぎ、人材確保が難しくなっている。自前のスタッフだけでは賄えず、われわれのようなフリーの人間に仕事を任せるようになるが、人件費は自前スタッフよりはフリーのほうが高く、それがまた経営を圧迫している。テレビ局からの制作費の支払いも鈍く、番組が放送されるまで制作費は制作会社が立て替えているという話も聞いた。スタッフの流出で人材育成も不十分になり、番組の質の低下を招いている」
テレビ局依存から脱却へ
元日本テレビプロデューサーで上智大新聞学科の水島宏明教授もテレビ業界を取り巻く環境について以下のように指摘する。
「コロナ禍でテレビ局の業績が悪化し、テレビ局にぶら下がっている制作会社は製作費削減でより増幅されたかたちでしわ寄せがきている。海外ロケがなくなり、低予算の番組が続くなど、番組づくりのあり方も大きく変わった。国内ロケでもクルーが減員され、機材も簡易化され、Zoomの延長線上のような番組が増えている。ロケも近場で済ませ、『100円ショップに行ってみました』などのお手軽につくれる番組が主流になった」
さらに、こうした傾向はコロナ前から見受けられていたと語る。
「テレビ局は以前から広告収入の減少で経営が厳しくなっていて、コロナ禍は追い打ちをかけたにすぎない。東京のキー局でさえ収入が前年比マイナス続きで、地方局となると収入が前年の半分というところも珍しくなくなった」
その上で、制作会社が窮地を脱する「処方箋」についてこのように提言する。
「これまでテレビ局にぶらさがっていた経営体質を改めるべきだ。配信系に移行するのは一つの方策。インターネットではAmazon Prime Video(アマゾンプライムビデオ)やNetflix(ネットフリックス)など資金力の豊富なグローバルな配信企業が台頭している。小さな国内の制作会社が急に巨大な配信企業と取引できるのはさすがに現実的ではないが、視聴者の共感を得られる配信番組を地道に発信し続けて実績を積み重ね、信頼を勝ち得ることが求められている」
(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)