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『進撃』人種差別的グッズ、なぜ発売?製作委員会の責任、アニメ海外進出のリスク

文=編集部
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『「進撃の巨人」The Final Season』公式サイトより

 アニメ『「進撃の巨人」The Final Season』の製作委員会は15日、『「進撃の巨人」製作委員会よりお知らせ』と題する謝罪文を公表した。14日に受注を開始したグッズ「マーレの腕章」について、「人種差別、民族差別の象徴として描かれたものを安易に商品化したことは配慮を欠いた行為であった」と謝罪し、販売を中止することにしたのだ。原文は以下の通りだ。

<11月14日に受注を開始した「マーレの腕章」につきまして

 当該商品は、作中に登場するキャラクターの衣装を再現した商品として制作いたしました。しかし、作中で人種差別、民族差別の象徴として描かれたものを安易に商品化したことは配慮を欠いた行為であったと認識しております。

 大変申し訳ありませんでした。

 「進撃の巨人」製作委員会は、いかなる差別も認めるつもりはございません。

 つきましては、本日11月15日、当該商品の受注・販売を中止することにいたしました。

  すでに商品をお申し込みされた皆様、ならびに「進撃の巨人」ファンの皆様にも深くお詫び申し上げます。

 今後は同じことの無いよう、より一層気を引き締めて運営を行って参ります。

2021年11月15日

「進撃の巨人」The Final Season製作委員会>(原文ママ)

ナチスのユダヤ人迫害を肯定するかのような商品

 グッズ紹介サイトでは、この腕章を「『悪魔』であるエルディア人と他人種を区別するために設けられた腕章」と説明していた。

 商品説明からもにじみ出ているが、「マーレの腕章」はナチスドイツがユダヤ人に対して行った差別的な政策を彷彿とさせるシーン(編集部注:ユダヤ人に対して『ダビデの星』が記された腕章を付けることを強制し、迫害した)で使われていたこともあり、Twitter上では海外のファンなどから以下のように「ユダヤ人コミュニティや、ナチス政権によって傷つけられ、悪影響を受けた他のすべてのコミュニティや人々にとって鈍感だ」などと批判の声が上がっていた。

「Of all the ideas you could have used for pieces of merchandise, this is probably the worst I could imagine.」

「This is insanely inappropriate and insensitive to the Jewish community and every other community/people that were hurt and negatively impacted by the nazi regime. Please please do not sell this as merchandise. I promise people are gonna watch,we don’t need this.」

ゲーム出演声優が靖国参拝で中国で炎上した事例も

 アニメ制作会社関係者は話す。

「海外展開はアニメ業界の規定路線になっています。いろいろな国にファンがいることを前提に、原作を守りつつ、コンテンツを展開していくことが求められています。特に歴史認識や文化的な視点は、注意しないとコンテンツそのものに深刻な影響を及ぼしかねません。

 世界的に人気な『進撃』の製作委員会さんが、なぜ商品化にゴーサインを出したのか首をかしげざるを得ません。諫山創さんによる原作漫画は、人類の歴史や社会問題をモチーフにした表現が多々あることで知られています。例えばこの腕章も、ナチスなどの負の歴史を称揚しているわけではなく、読者に人間のありさまをいろいろと考えさせる一つ小道具だったのではないかと私は思います。ただこの腕章だけを取り上げてピックアップし商品化してしまえば、作品そのものが伝えようとしているテーマやイメージとは違ったメッセージを発してしまうことになるのは明らかでしょう」

 『進撃の巨人』は日本のみならず海外でも大きく展開される世界的なコンテンツだ。果たして製作委員会のチェック機能は十分に機能していたのだろうか。

 日本政府は近年、『進撃の巨人』をはじめとしたアニメやゲームといったコンテンツ産業の海外進出を積極的に支援してきた。一方で、積極的に国外に打って出れば出るほど、作品自体の表現や関連商品はもちろん、それにかかわったクリエイターやスタッフの振る舞いも含めて、諸外国の宗教的、歴史的タブーと摩擦を生じる機会を増やすことにもつながっているようだ。

 当サイトが10月26日に報じた記事『人気声優の茅野愛衣さん音声、中国ゲーム作品で一斉に削除…靖国参拝を問題視か』のように、思わぬところで海外の大きな反発を招く事態もあった。

 では、海外展開も踏まえてアニメやゲームなどの事業を行う際、文化や宗教、歴史認識などで摩擦や国際問題を起こさないようにするためのガイドラインはあるのだろうか。もしくは政府として、事業者に対する注意喚起やアナウンスは行っているのだろうか。経済産業省コンテンツ産業課の担当者は次のように説明する。

「(コンテンツに関する)日本企業や個人が海外でビジネス展開をするのにあたって、我々経産省から、外国の文化、宗教などの観点から、注意を喚起するような統一的な見解、アナウンスは出していません。

 外務省にも聞いてみたのですが、(アニメ、マンガ、ゲームが表現する)『文化』というとさまざまいろいろありすぎて、やはり統一的なことはやっていないそうです。他方で各国には我が国の大使館があります。各大使館の中には必ず文化部があり、活動するのにあたって注意しなければいけないことに関して、相談を受けつけているそうです。必要に応じて文化部に問い合わせるのが一番早いのではないでしょうか」

 まとめると経産省と外務省はアニメやゲームなどの歴史観や文化、宗教的な摩擦を招く恐れのある表現や関連商品の海外展開に関し、統一的なガイドラインや見解を出していない。国際的にハレーションが起こりそうな懸念があるケースは、事業者や各クリエイターが各国にある日本大使館に相談するというのが現実的な対応ということのようだ。

 例えば、ホロコーストナチズムに関連しそうなコンテンツや商品であれば、在イスラエル日本大使館の文化部に、どのような点を注意すべきかを問い合わせる必要があるのかもしれない。

 表現の自由の観点から、政府が“なんらかの規則を使って縛る”という事態になれば、それはそれで問題が生じてくる。日本産のコンテンツを世界に打ち出していくためには、各コンテンツ関連企業による緻密なリサーチと配慮は必須ということなのだろう。

(文=編集部)

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