丁寧な日本の航空会社
さて、これまで米国の航空会社の問題について述べてきたが、アジアでも大韓航空の機内で乗客同士のトラブルに対し、スタンガンを搭載しCAを訓練させるといった荒っぽい対応が話題となっている。スタンガンは乗客に奪われると逆に犯行に使われ、クルーが被害に遭ったりテロに利用されるおそれもあり到底賛成できかねるが、日本ではどうなっているのか。旅客への対応について、地上と上空とに分けてみてみたい。
まず話題のオーバーブッキングで実際に航空機の定員よりも多くの旅客が空港にショーアップした場合、大手航空会社の国内線では、後の便に回ってくれた客に協力金として1万円を支給、当日に後続便がなく翌日の便に変更してもらう場合には、ホテル代プラス2万円を支給するという基準がある。国際線では基準を定めてはいないが、ホテル代プラス2万円を最低限として、状況に合わせて支給額を上げていく方法をとっている。
筆者が知っている例では、お盆休み最終日にパリから成田へ帰る便で、最終的に15万円を協力費として支払ったこともある。一般的にヨーロッパから日本へ帰る便を例にとると、オーバーブッキングが発生して職員が降機に協力してもらいたいとアナウンスすれば、10名前後の方が手を挙げてくれる。特に学生の方などはもう1日ヨーロッパに滞在できるのだからと喜んで協力してもらえる。
ともあれ、日本の航空会社ではこのような協力金と丁寧な対応によって、定員を超えたからといって実力で旅客を機内から引きずり降ろすことなどはあり得ない。
米国では一連の対応に批判が殺到した結果、ユナイテッド航空とデルタ航空では今後オーバーブッキングでの協力金を最大1万ドル(約110万円)に引き上げたが、あまりにも極端だ。そこには、問題が起こればなんでも金で解決すればよいという米国流が垣間見られる。日本のように旅客に対し心をこめて接して事情を説明すれば解決できるということは、理解されない文化なのかもしれない。
次に、上空において旅客によるトラブルが発生したときの対応はどうか。
日本航空の例では、機内で迷惑行為を働く乗客が出た場合、CAは機長の了解の下にまず当該乗客へイエローカード(警告書)を発行し注意を促す。これに従ってもらえない場合は、次にレッドカード(命令書)を発行する。そこには航空法73条に基づく違法行為の該当例と、違反者には50万円以下の罰金が課されるほか、警察への引き渡しや損害賠償の請求などが行われる旨が記載されている。加えて、次回以降は「搭乗拒否扱い」になる可能性も伝達される。そして粗暴な行為を続ける乗客は、プラスチックループと呼ばれる手錠で身体を拘束されることもあり、CAたちは拘束方法について訓練を年に一度行っている。
こうしてみてくると、旅客に対するサービスやホスピタリティは国や航空会社によって一律でないことがおわかりいただけよう。それは利用者にとって、航空会社を選ぶときの重要なファクター(要素)となり得るものだろう。
(文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長)
【杉江弘氏の近著】
『乗ってはいけない航空会社』(双葉社)