昨年、早稲田大学のあるサークルが、飲食店に50人分の予約を入れていたにもかかわらず、連絡もなしにキャンセルしたとして、店舗従業員が「食材が無駄になった」「警察に行く」とツイッター上でつぶやき、大きな話題となった。
この事案は、さまざまなメディアでも取り上げられ、早稲田大学の学生からも当該サークルを非難する声が多く上がった。その後、当該店舗が「円満解決しました」と報告したことから、予約した担当者が謝罪したのだろうとみられている。
だが、実は飲食店では、予約した客が無断でキャンセルすることは珍しくない。上記事案のように、大人数が当日キャンセルした場合などは大きな損失となるため、キャンセル料を請求することもあるが、キャンセル料を支払わずに連絡が取れなくなる客もいる。
そのような悪質な客の電話番号を飲食店間で共有する「予約キャンセルデータベース」というウェブサイトが物議を醸している。
このサービスでは、予約を無断キャンセルした人の電話番号を飲食店同士が相互に共有できる。無断キャンセルされた店舗は、客の電話番号を登録し、その情報がストックされる。サービス利用者は、電話番号の入力することで、その番号の持ち主が過去に無断キャンセルをしたことがないか確認できるというシステムだ。
同サイトに関して、広く飲食店で採用されれば、無断キャンセル防止に大きな役割を果たすとして期待する声がある一方、個人情報保護の観点から懸念する意見もある。
弁護士法人ALG&Associates執行役・弁護士の山岸純氏は、同サイトは個人情報保護法に違反する可能性があると警鐘を鳴らす。
「個人情報保護法は、個人情報を取得した際に、または、あらかじめ、その情報を利用する『目的』を通知・公表しなければなりません(第18条など)また、個人情報を第三者に提供する場合は、本人の同意などが必要となります(第23条など)。飲食店の予約をする際に聞いた電話番号について、果たして『ドタキャン対策のため』という利用目的を設定して通知・公表しているかどうかわかりませんし、第三者提供するに際しても要件を満たしているかどうか不明です。
予約キャンセルデータベースは『登録されている電話番号は暗号鍵と不可逆暗号化して保存されているため、運営者サイドでも電話番号はわかりません』としていますが、運営者の問題ではなく、電話番号を提供する各飲食店が問題なわけですから、なんの言い訳にもなっていません。
また、運営者にしても、個人情報保護法第17条は、『偽りその他の不正の手段により個人情報を取得してはならない』とありますので、仮に、飲食店が『ドタキャン対策のために個人情報を取得すること』を利用者に通知・公表せずに電話番号を取得し、これを運営者がさらに取得する場合、直接、法律に違反するわけではありませんが、趣旨からするといささか問題ありと考えざるを得ないでしょう』(山岸氏)
このデータベースそのものが違法というより、飲食店側がこのデータベースに客の電話番号を登録することが何より違法性を帯びていると考えられるというわけだ。
「『運営者』が問題なのではなく、電話番号を提供する『飲食店』が、第一に問題となります。そして、このような『取得時に問題がある電話番号という個人情報』を取得するのも、法の趣旨から問題とすべきと考えます」(同)
現時点で問題がないとはいえないサービスではあるが、飲食店経営者たちからは「合法的に、かつ低価格で運営されればブレイクする可能性がある」と声が少なくない。無断キャンセルに泣き寝入りすることが多い現場の偽らざる本音だろう。
多くの飲食店では、無断キャンセルを防止するために、前日に確認の電話を入れるなどの対策をとっているが、それでもマナー違反はなくならないようだ。そもそも、同サイトのようなサービスを求める飲食店が多くあることが悲しむべき状況といえるだろう。
(文=編集部)