慶應義塾大学三田キャンパスの学生食堂「山食」が、12月14日に「CAMPFIRE」でクラウドファンディングを開始し、たった数時間で目標金額の500万円を達成した。その後も順調に支援者を増やしていき、現在(12月21日時点)は支援総額2700万円以上(支援者数は2600人以上)に達している。
山食は創業83年という長い歴史を持つ食堂で、創業当時と変わらない味を提供し続けている。看板メニューの「山食カレー」を筆頭とするリーズナブルかつボリューミーなメニューで、学生・教職員・OBたちの胃袋をつかんできた。
山食といえば、慶大の公式グッズとして販売されているレトルトカレーも有名だ。パッケージの顔になっているのは、山食の現代表の谷村忠雄氏。1955年に山食に入社し、勤続65年になるという。長い間、学生たちの胃袋を支えてきたことが評価されて、卒業生ではないが、2009年に慶大の“特選塾員”にも選ばれている。
山食がクラファンに挑戦した理由
新型コロナウイルスの感染拡大によって、今年は生活様式にさまざまな変化があった。大学でいえば、オンライン授業が基本となり、対面授業がほとんどなくなってしまったのだ。
必然的にキャンパスを訪れる学生や教職員は少なくなり、学食の売り上げは激減。山食については、緊急事態宣言による3カ月にわたる休業と、売り上げの40%以上を占めていたパーティーが開催できないことが、大きな痛手となったそう。売り上げは昨年比約80%減と極めて厳しい状況で、銀行からの借り入れも行ったという。
現在、従業員は代表を含めて10人。誰も解雇することなくコロナ禍を乗り切りたいが、現状が続けば半年以内に資金がショートしてしまう。これ以上の借り入れも難しいと判断したため、苦渋の選択でクラウドファンディングに踏み切ったのだ。
気になる支援金の使い道とリターンは?
クラウドファンディングで得た支援金は、リターン品の発送料と手数料を差し引き、残りを存続のための運転資金に充てるという。
気になるリターンは、以下の4つ。
(1)山食で使用できる1食分の食券(500円)
(2)レトルト山食カレー3パックと非売品の山食カレー皿のセット(1万円)
(3)レトルト山食カレー3パック、山食カレー皿、山食ボールペン、山食×野球部コラボタオルのセット(3万円)
(4)3万円のセットに加えて、山食内で掲載される支援者名の権利付き(5万円)
一番安い500円は在学生向けの良心的な設定になっているが、そのひとつ上は一気に1万円に跳ね上がるという、強気な設定に驚かされる。しかし、慶大のOBであれば出し惜しみするような額ではないという判断で決められたのだろう。
12月21日時点での支援者数を見ると、(1)835人、(2)1696人、(3)41人、(4)107人と、1万円のリターンの支援者数が一番多くなっている。スタートから1週間でここまでの支援者が集まったのは、山食がOBたちから愛されている証拠だろう。
また、非売品の山食カレー皿をリターン品に加えている点も抜け目のなさを感じさせるが、1万円で非売品の皿が手に入り、それを使うことでなつかしい大学時代の思い出に浸ることができるのなら、安いのかもしれない。
仲間のピンチを救う!令和の「社中の絆」
CAMPFIREのコメントや山食の公式ツイッターには、学生やOBからの応援メッセージに加えて学生時代のエピソードが並び、そこには「社中協力」「社中一体の精神」といった言葉も見られる。
これは慶大に根付く精神で、明治時代における慶應義塾消滅危機を乗り越えた話に由来する。明治初期、廃藩置県や西南戦争などで塾生たちの生活が逼迫して、慶應義塾の経営が難しくなったことがあった。そこで、福沢諭吉は教員を半減しようと提案。それに反対した者たちが集まって「慶應義塾維持法案」を作成し、資金集めを行った。
これを簡単に説明すると、「それまで慶應義塾は世の中に貢献してきた歴史がある。それを継続するには、現在の教育体制を守れるよう私立であることが大切だ。そのためには、慶應で学ぶ者同士が、それぞれの家産に応じた金額を出し合うことが唯一の方法」といった内容だ。
この運動によって、現在にすると約2.5億円の寄付金が集まり、慶應義塾は廃塾の危機を乗り越えることができた。
今回の山食のクラウドファンディングの終了は来年1月27日と、あと1カ月以上もある。最終的に、どのくらいの支援金が集まるのか? 令和の“社中の絆”の強さを見届けたい。
(文=安倍川モチ子/フリーライター)