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木村誠「20年代、大学新時代」

医学部のない早稲田大学がなぜ1位?補助金に見る私大経営の実態…日大、慶應がトップ3

文=木村誠/教育ジャーナリスト
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早稲田大学の大隈講堂(「Wikipedia」より)

 3月に、日本私立学校振興・共済事業団が2019年の私立大学等経常費補助金の交付状況を公表した。それを見ると、私立大学等(短大・高等専門学校を含む)861校に総額約3166億円となっている。この私学補助金には、教職員数や学生数などに所定の単価を乗じて得た基準額を、教育研究条件の状況に応じて傾斜配分する「一般補助」と、教育研究に関する特色ある取り組みに応じて配分する「特別補助」がある。19年度は、一般補助約2760億円、特別補助約406億円であった。

 私学助成の総額でトップの早稲田大学は、一般補助でも特別補助でも1位である。ただし、表で見るとわかるように、10位までは、同校と立命館大学を除いて、すべて医学部のある大学が並んでいる。

医学部のない早稲田大学がなぜ1位?補助金に見る私大経営の実態…日大、慶應がトップ3の画像2医学部のない早稲田大学がなぜ1位?補助金に見る私大経営の実態…日大、慶應がトップ3の画像3

 2位の日本大学は早大よりスケールが大きいが、僅差ながら一般補助は少ない。これは、従来は大学の規模に応じて配分されてきた一般補助にも、教育研究での評価に応じて傾斜配分をする「私立大学等改革総合支援事業」が18年度より導入されたからだ。ここ数年は早大が連続トップだったが、2位以下は変動が大きい。早大の強みは、社会人の受け入れや留学生数で全国トップクラスである点だ。

 一般補助の私立大学等改革総合支援事業では、特色ある教育や高度な研究の展開、地域社会への貢献、社会実装の推進といった改革が評価される。また、特別補助交付額が多い順に並べた項目でも、大学院などの機能の高度化、授業料減免および学生の経済的支援体制の充実、大学などの国際交流の基盤強化、成長力強化に貢献する質の高い教育、経営強化などの支援、社会人の組織的な受け入れなど、早大の得意分野が比較的多い。これらが、伝統とスケールメリットを生かした連続トップの要因であろう。

 さらに今春、早大は東京大学からの提案で、研究・教育、設備の相互利用などで包括的に連携する協定を結んだ。ビッグデータ、量子コンピューターなどの先端分野で協力を深めるという。異例ともいえるコンビだが、今後、早大は研究面でも期待が持てそうだ。

圧倒的に高い医学部学生1人当たりの私学助成額

 ちなみに、私学助成総額で見ると、17年の2~10位は、日大、慶應義塾大学、東海大学、立命館大、順天堂大学、昭和大学、近畿大学、北里大学、福岡大学であった。18年は慶大、東海大、立命館大、日大、近畿大、昭和大、順天堂大、明治大学、東京理科大学であった。表の19年の20位までを見ても、半数以上が医学部を擁する大学である。総じて、医学部の有無が私学助成の交付金額を大きく左右することがわかる。

 表にはないが、医科単科大学は特別補助の割合が低くても、一般補助だけで上位に食い込んでいる。医学部は6年制だが、入学定員は100人台がほとんどであり、学生数は6学年全体でも他学部の入学定員並みである。そのため、国立大学医学部ほどでないにしても、私立大学医学部の学生1人当たりの補助金額は、他学部と比べると圧倒的な高額になる。

 私大の補助金交付額について、1校当たりで平均5億2000万円、学生1人当たり15万円となっている。ところが、医療系単科大では、ここ数年を見ても日本医科大学は1人当たり400万円を超え、東京慈恵医科大学と聖マリアンナ医科大学は300万円を超えている。ほかにも、200万~100万円台の医学部はざらだ。ちなみに、早大は1人当たり20万円台である。

 最近、私大医学部の高い学費は値下げの傾向にあるが、私学助成を考えると、医学部進学がいかにコストパフォーマンスが高いかがわかる。そのため、近年は受験生の医学部人気が過熱しているが、医療関係者の感染死亡が伝えられる新型コロナウイルスの騒動によって、どう動くのだろうか。新型コロナは、医療の原点を問い直す機会になったともいえる。

「MARCH」より健闘している「関関同立」

 医学部のない有名私大の補助金は、西高東低の傾向にある。一般的に、関西の「関関同立」(関西・関西学院・同志社・立命館)が、東京の「MARCH」(明治・青山学院・立教・中央・法政)より健闘しているのだ。

 ここ数年で、立命館大は総額5位から4位に順位を上げている。医学部のある近畿大も10位以内をキープしている。両大学とも、スケールメリットと積極的な学部改革がプラスになっているのであろう。

 首都圏で医学部のないMARCHでは、ここ数年、明大が10位前後である。それに、法政大や中央大が続いている。それらに比べ、上智・青学・立教の「ミッション系JALパック」は学生数が相対的に少ないだけに、総額では低くなる。ただ、学生1人当たりの私学助成では、明大に次ぐランクにアップする。上智大は早慶に次ぐ。どうも、総額よりも1人当たりの私学助成額のランクが、入試の難易ランクに近い印象だ。

 理工系の東京理科大は、総額では学生数1万人以上の大学で早慶に続いている。地方では、名城大学や中部大学の名古屋勢の健闘が目につく。やはり、理工系学部が充実しているからであろう。

高い特別補助をキープする地方の小規模私大も

 表にない地方の小さな私大でも、がんばって特別補助を勝ち取っているケースは多い。たとえば、16年から19年まで、特別補助の高い割合をキープしている大学もある。東日本国際大学、岡山商科大学、松山東雲女子大学、宮崎国際大学、函館大学などだ。被災地の大学もあるが、3年間も持続する健闘ぶりを評価したい。半面、特別補助がゼロの小さな私大は地方に多い。医療系も目立つが、新しい大学もある。申請ノウハウの差もあるのであろう。

 逆に、私学助成申請をしない私大も19年に14大学、18年に17大学あった。管理不適切で私学助成が不交付となった大学は、東京福祉大学、大阪観光大学がある。大阪観光大は大学役員が刑事事件で処分されたのが理由である。また、不正入試などで、前年に引き続き東京医科大学が不交付となっている。このような事例にも、現在の私学経営の現状がうかがえる。

(文=木村誠/教育ジャーナリスト)

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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