中国では昨年末から習近平国家主席の入院・手術説が広まり、習氏に万一のことがあった場合に対処する「国家特別危機管理部」の存在が明るみに出た。それに加え、首都北京に隣接する河北省の省都・石家荘市では、すでに収束したとみられた新型コロナウイルスの集団感染が拡大し、すでに1100万人がロックダウンの対象になっている。さらに、同省廊坊市では12日、住民490万人を7日間の自宅隔離の対象とし、大規模な検査が実施されている。北京と石家荘市など河北省の各都市は2022年の冬季五輪開催都市になっており、早くも五輪開催を懸念する声が出るなど、年明け早々、中国情勢は波乱含みの展開になっている。
習近平、脳動脈瘤手術説が浮上
習氏の入院手術説を配信した「路徳社」(Lude Media)は、米国在住のユーチューバ―、王丁鋼(Wang DingGang)氏が17年に創設した。彼のバックには、大富豪で習近平指導部に反対の立場をとる米国在住の郭文貴氏がついているといわれ、郭氏が運営資金を提供しているのに加え、中国の内部情報の提供元となっており、路徳社は朝晩2回、中国関連のニュースを配信している。
習氏の脳動脈瘤手術などの情報は「習氏の身近にいる人から入手したもので、すでに数回、カテーテルでの手術を受けていた」という。さらに、医療チームからの情報として、「脳動脈瘤は脳内の時限爆弾であり、動脈瘤の壁には弱点があるため、動脈瘤が破裂する危険性がある」とも伝えている。
路徳社は、習氏の手術の情報に加えて、習氏が自身にもしものことがあった場合に備えて「国家特別危機管理部を設立した」と報じている。そのメンバーは「習近平政権の大番頭」と呼ばれる丁薛祥・党政治局員らで、丁氏は党中央弁公庁主任、党総書記弁公室主任、国家主席弁公室主任を兼務する習氏の秘書的な存在。さらに、中国人民解放軍の制服組トップの許其亮・中央軍事委員会副主席と、習氏の弟である習遠平氏らが入っている、と路徳社は伝えている。
この習氏の脳動脈瘤手術説については、真偽は不明だが、河北省での新型コロナウイルスの蔓延は、習近平指導部にとって悪夢が現実になって蘇ってきたように映っているだろう。
中国共産党創設100周年に冷水
中国の政府系通信社・中国新聞社によると、石家荘市の藁城区では新型コロナ対策の一環として、村に住む2万人を中央隔離施設に収容する措置が講じられている。北京市の疾病予防管理センターは、タクシー・配車会社に対し、相乗り禁止を推奨する指針を出した。また運転手に対し、週1回の新型コロナ核酸検査の実施とワクチン接種を求めている。
中国では昨年1月、湖北省武漢市で世界で初めて感染者が確認され、湖北省のほぼ全域でロックダウン措置がとられたが、3月には解除。その後、中国では大きな感染拡大はなかっただけに、北京を円形に包み込む河北省で再びロックダウンが現実となったことで、中国指導部は12日以降連日テレビなどを通じて、北京市や上海市など少なくとも24省・直轄市に呼びかけているほどだ。例年、春節(旧正月=今年は2月12日)期間中には約30億人が移動するといわれるだけに、昨年同様、中国全土で感染が急拡大すれば、毎年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)開催どころではなく、中国の政治日程全般に影響が出るのは免れないからだ。
とくに、今年7月23日には中国共産党創設100周年の記念日を迎え、北京や党の創設大会が開かれた上海市などで各地では大規模な慶祝行事が予定されているだけに、再び新型コロナが中国を襲うことになれば、100周年が台なしだ。米国では対中強硬派だったトランプ政権が終わり、中国寄りの民主党のバイデン政権が誕生するなど、習近平指導部が対米融和に期待を持っているといわれる。
そのようななかで、習氏は中国共産党100周年の祝賀行事で中国の国威発揚と習近平指導部の権力基盤強化を図ろうとしているだけに、習氏にとって、自身の健康と新型コロナウイルス封じ込めはどうしても克服しなければならない最低限の課題といえよう。
それができるかどうか。習氏が22年秋の党大会で3期目の党総書記を務め、23年春の全人代で再び国家主席に選出されて“終身皇帝”の座を堅持できるかどうかの分かれ目となりそうだ。
(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)