飛び出たアゴに、きれいに割れた腹筋。中国で制作され、現地で10月1日から上映開始となった3DCGアニメの新作ウルトラマン『鋼鐵飛龍之再見奥特曼』(邦題『ドラゴンフォース~さようならウルトラマン~』)。今年7月10日に制作が発表され、その後YouTubeなどを通して日本でもPV映像が視聴することもできたこともあって、独特なデザインが賛否を招きながらも、特撮ファンを中心にネット上では大きな話題になった。
だがこれに対し、円谷プロダクションはすぐさま「当社は一切関知しておらず、本件映像作品は当社の許諾・監修等なく製作されているものです。当該発表会及び映像におけるウルトラマンキャラクターの利用方法、態様等は、ウルトラマンブランドを著しく毀損し、断固として非難すべきものであり、到底認められるものではありません」と、公式サイトにて声明を発表。「法的措置を含む断固とした措置をとってまいる所存」と続けたが、まるで何事もなかったかのように、現地では『鋼鐵飛龍之再見奥特曼』の上映が開始されている。
キャラクタービジネスをずさんに扱うイメージが強い中国ではあるが、初代の放送から今年で51年目という長い歴史を持つ『ウルトラマン』シリーズだけあって、1970年代から海外の制作会社と合作を行うなど、海外進出の歴史も長い。そのなかには複雑な事情も存在すし、今回の中国ウルトラマンに関しても複雑な経緯があり、なかなか解決は難しいだろうと伝える報道もある。
そこで今回は、ロックバンド「モノブライト」のベースでありながら、「東映特撮ファンクラブ」でコラムも手掛けるほどの特撮マニアとして活躍中の出口博之氏に『鋼鐵飛龍之再見奥特曼』の印象を聞きつつ、『ウルトラマン』の主な海外進出の歴史を解説してもらった。
――通称“中国ウルトラマン”こと、『鋼鐵飛龍之再見奥特曼』が公開されました。ことの是非はともかく、まずPVをご覧になってみていかがですか?
出口博之(以下、「出口」) いや、よくできていますよね。2015年に円谷プロさんがYouTubeで公開した『ULTRAMAN_n/a』という、フルCGアニメの『ウルトラマン』がありますが、それに勝るとも劣らないクオリティです。さすがに腹筋とアゴはちょっと目につきますが(笑)、これが『ウルトラマン』だという定型はあるようでこれというものが決まっていなかったりします。新しい解釈だといえば、その範疇かなと。
――日本のアニメやゲームのキャラクターが欧米でデザインされると、マッチョになったりしますよね。ああいう感じと近いのかなと思いました。
出口 中国の嗜好というか、「ヒーローとはこうあるべき」という姿が、欧米のヒーロー像に強く影響されているのかもしれないですね、日本と欧米のいいとこどりというか。
長くて深いチャイヨーとの溝から誕生した中国ウルトラマン
――改めて『ウルトラマン』の海外進出の歴史について教えてください。
出口 『ウルトラマン』は世界の100を超える国や地域で展開されています。今回のようにオリジナル新作が海外で制作されたケースを挙げるなら、タイのチャイヨー・プロダクションという制作会社が1974年に円谷プロと合作(当時)で作品を作っています。最初は関係性も良好で、『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』という、ハヌマーンという神様(インド神話などに登場する白猿姿の神)とウルトラ6兄弟が協力して怪獣軍団をやっつけるというストーリーの映画ですね。
仏教国だけあって、良いことをしたら良いことが、悪いことがしたら必ず罰が当る、という描写が強調されていて、物語の導入で仏像を盗んだ泥棒をハヌマーンが握りつぶすというシーンがあるんですよ。日本人からすると「やりすぎじゃね?」と思うところもありますが、タイでは成立しているらしいんです。怪獣とヒーローが大勢登場して、大立ち回りを披露する――子どものころに見ましたけど、純粋に楽しかったです。まぁそこからチャイヨー・プロダクションと円谷が著作権を巡ってもめるようになって……
――そこのところは、それだけで1冊の本になるぐらい複雑ですよね。
出口 円谷の経営悪化や香港の会社なんかも関わっているんですよね。融資だ、いや売却だなんだ、というのがあって、権利は結局どちらが有しているのか……裁判も何度もやっていますが、結果が国によって違っているぐらい、ねじくれた状態。さらに今回の中国ウルトラマンは、その絶賛係争中のタイのチャイヨーから権利を譲渡されて制作されたものと主張しているんです。状況は輪をかけて複雑になっていますから、中国ウルトラマンの展開を止めるのも難しいだろうと思います。
――チャイヨーや中国での展開はひとまず置いて、その他の主な『ウルトラマン』の海外展開を解説してください。
出口 80~81年に放送された『ウルトラマン80』の放送終了後、しばらくTVで『ウルトラマン』の新作が放送されない“特撮 冬の時代”があったんです。その間も『ウルトラマンキッズ』シリーズや、アメリカとの合作『ウルトラマンUSA』などのアニメが制作されたり、マンガの連載などはずっとありましたが。
そんな冬の時代が10年近くも続いたあと、久しぶりの実写新作が、90年にオーストラリアで制作された『ウルトラマンG(グレート)』。日本での放送・上映はなく、オリジナルビデオとして発売されたんですが、結構豪華なんですよ。日本語吹き替え版では主役を京本政樹さん、それに柳沢慎吾さん、山寺宏一さんなんかが出演されていたりして。
冬の時代が長かったですし、僕は82年生まれで、生まれる前に『80』の放送は終わってしまっている。終わってから怪獣図鑑であったり、VHSで過去作を見たりしていたんですけど、「俺たちのウルトラマンが新しく始まる!」と、当時は随分興奮しました。それだけに「TVで放送しないの!?」(※遅れて91年にNHK-BS2、95年にTBSで放送)という落胆は大きかったですが(笑)。
――続いて93年にアメリカで制作された『ウルトラマンパワード』があります。
出口 『パワード』は、アメリカでもう一度『ウルトラマン』を作るというコンセプトのもと制作されました。おなじみの日本のウルトラ怪獣が出てくるんですが、アメリカ風にデザインがかなりリビルドされているんですよ。
――それは『ゴジラ』と『GODZILLA』ぐらい違うものですか?
出口 結構違いますね。ただ、たとえばジャミラという怪獣がいます。水のない惑星に不時着してしまった宇宙飛行士が、何らかの要因で怪獣になっちゃったという設定を表現して、日本では表皮は粘土質でがさがさ、ヒビ割れしている怪獣然としたルックスでした。これが『パワード』では宇宙飛行士という設定をいかして、かなりメカニカルに描かれているんですよ。
『パワード』は、他の怪獣もリアリティに溢れた素晴らしい造形なので、オリジナルの怪獣のデザインなどの違いに注意して見るとすごく面白いです。
ちなみに、アメリカの放送倫理にあわせていますから、普通にパンチキックをやっていたら暴力描写ということで規制が入ってしまうためか、戦闘シーンがやたらとスローモーなんです(笑)。ファンの間では「太極拳」なんていわれていますが、それが上手い具合に巨大さを感じさせる演出につながっている一面もあって、それもまたローカライズならではの楽しみ方だな、と思っています。
ビジネスモデルとして眺めても面白い特撮の海外進出
――その国独自の文化や思想が、作品を通して見えるのは楽しいですね。
出口 『ウルトラマン』から離れますが、たとえば『トランスフォーマー』シリーズは日米で人気が高いですよね。あれはタカラ(現タカラトミー)が『ダイアクロン』と『ミクロマン』という、小さい玩具シリーズを輸出していまして。そのシリーズの後期に発売された車から人型に変型するロボットがアメリカで大ヒットしマンガやアニメ化され、日本でも人気が出た。日本だけの展開では、ここまでの人気コンテンツにはなれなかったと思いますから、海外で花開いたキャラクタービジネス、マーチャンダイジングであるという一面から考えても興味深いなと思います。
――スーパー戦隊シリーズが原型の『パワーレンジャー』もそういう一面がありますね。
出口 そうですね。『パワーレンジャー』は、役者パートをあちらの俳優を起用して、新しく撮影しているんですよ。特撮パートは日本から持っていたもののままで。そのなかで、向こう独自の物語が展開されたり、日本にはない新フォームが登場している。ただ日本で制作された映像をそのまま放送・配信したわけではなく、ローカライズをしっかりやっているからこそ、あちらで人気が出たんだろうと思います。
違和感を覚えるときもありますけど、リスペクトのあるローカライズは「●●人が作るとこうなるんだ」という発見があって楽しいんです。だから中国ウルトラマンも、権利関係が整理されたら見てみたいですね、独自の味があるはずですから。日本ではDVDが発売されることもまずないでしょうから、難しいでしょうけど……。
(文・構成=編集部)