連続殺人は「自尊犯罪」
神奈川県座間市のアパートの一室で男女9人の切断遺体が見つかった事件で、この部屋に住む27歳の白石隆浩容疑者が死体遺棄容疑で逮捕・送検された。白石容疑者は警視庁の調べに対し、「8月末に引っ越してきてから9人を殺した」「いずれも首を絞めて気を失わせた後で殺害し、遺体を切断した」などと供述している。また、動機について「女性に乱暴したり、金を取ったりすることが目的だった」などと説明しているので、典型的な連続殺人と考えられる。
連続殺人犯(シリアルキラー)の胸中にしばしば性的な動機が潜んでいることはよく知られているが、それだけで犯行に及ぶわけではない。世界的ベストセラー『アウトサイダー』で有名なイギリスの作家、コリン・ウィルソンは、「セックスの充足」に加えて「自尊欲求の充足」を動機として挙げている。
それでは、「自尊欲求」とは何かという話になるが、一言で言えば「コントロールへの欲求」である。ウィルソンは、FBI(米連邦捜査局)行動科学部のロバート・R・ヘイゼルウッドの「性犯罪行為そのものはセックス以外の欲求を満たすのだという事実です。それは権力欲求であり、憤慨欲求であり、コントロールへの欲求なんです」という言葉を紹介している。
つまり、被害者に対して支配力をふるい、コントロールしたいからこそ犯行に及ぶわけで、ウィルソンは「強姦がからんでいても、セックスが主目的ではなく、主目的はあくまでも自分が主人になったと感じることにある」と述べている。
被害者を強姦して殺害し、遺体を切断している瞬間だけは、自分が主人になったと感じられるがゆえに、この感覚を少しでも持続させるために犯行を繰り返すのが連続殺人犯だ。だからこそ、ウィルソンは連続殺人を「自尊犯罪」と呼んだのである。
有罪判決を「破滅的な喪失」と受け止めた可能性
裏返せば、「これでもひとかどの人間なのだ」と感じる自尊心がそれだけ低いということになる。自尊心を持てないからこそ、自尊欲求が生まれるのであり、当然こういうタイプは劣等感や不全感にさいなまれやすい。
白石容疑者が劣等感や不全感を抱くようになった直近のきっかけとして、今年5月に有罪判決を受けたことが重要だと筆者は考える。今年2月、売春行為を行っていた風俗店に女性を紹介したなどとして、茨城県警に職業安定法違反容疑で逮捕された。その後、5月29日に水戸地裁土浦支部で懲役1年2月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡され、6月13日に確定している。