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江川紹子の「事件ウオッチ」第90回

「『座間9人遺体事件』を機に、裁判員裁判のあり方の見直しを」江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト
「『座間9人遺体事件』を機に、裁判員裁判のあり方の見直しを」江川紹子の提言の画像1白石隆浩容疑者(写真:日刊現代/アフロ)

 最近、テレビのニュース番組を見るのが憂鬱だ。神奈川県座間市のアパートで9人もの切断された遺体が発見された事件について報じられるからだ。これまでも遺体をバラバラにして捨てる事件はいくつも起きているが、2カ月余りという短期間に、しかもそれまで面識のなかった人たちをSNSで次々と自宅におびき寄せて殺害し、これだけの遺体損壊に及ぶ事件は聞いたことがない。その凄惨さと猟奇性には、ニュースを見るたびに慄然とさせられる。

理解不能な容疑者の供述

 犯人の意図が理解できない点でも、本件はひどく不気味だ。

 昨年7月に神奈川県相模原市の障害者施設で、重度の障害者を狙い、45人を死傷させた事件にも強い衝撃を受けたし、植松聖被告が語る優生思想的な犯行動機には恐ろしさや憤りを感じたが、それでも彼がなぜ事件を起こしたのか、その理由として理解可能であった。

 ところが、今回の事件の場合、動機が何なのか、かくも連続した強い殺人衝動にかられたのはなぜなのか、その心理は常人には想像もつかない。

 そのうえ、逮捕された白石隆浩容疑者の自宅には被害者名義のキャッシュカードや診察券、女性用の靴、かばんなど、身元確認につながる被害者の所持品がいくつも見つかったという。なぜ、そういうものを残しておいたのかもわかりにくい。

 さらに、逮捕後は自身に不利益なことを次々に自供している様子が報じられている。

 たとえば、ツイッターに自殺願望を書き込んだ人を誘い出したものの、「本当に死にたい人はいなかった」と述べたという。この供述は、自殺ほう助罪か嘱託殺人罪(最高で懲役7年)を主張して死刑を免れる可能性を、自ら放棄したように思える。

 9人もの殺人と死体損壊が認定されれば、裁判で死刑が言い渡されるだろうことは、どんな素人でも容易に予想がつくだろう。本件では遺体の損傷が激しく、死因の特定が難しいと伝えられ、犯行の詳細を知るには、本人の供述が重要になってくる。一貫して、「自殺を助けただけ」「殺してほしいと頼まれた」と主張していれば、裁判で検察側の立証のハードルが高くなるため、捜査側は非常に困難な状況に陥ったかもしれない。

 ところが彼は、早々に殺人を認める供述をしたという。いったい何を考えているのだろうか。もしかして、被害者よりも、白石容疑者自身の中に潜在的な自殺願望があって人生に投げやりになっていたのではないか。

裁判員裁判員にかかる負担

 いずれにせよ、本件では入念な精神鑑定を行って、彼の心の闇に少しでも光を当てる努力が必要だ。裁判が始まるまでに、かなり時間を要することになっても、その手間と時間を惜しんではならない。

 最近の白石容疑者は、供述調書の署名を拒否していると伝えられている。弁護士の助言に応じたのか、命が惜しくなってきたのか、その意図は不明だ。

 ただ、今になって署名拒否をしても、このような重大事件では、警察は取り調べの最初から録音録画をしているはずだ。警察庁の発表によれば、昨年10月から今年3月までの半年で、裁判員裁判対象事件1432件のうち、77%にあたる1108件で全過程の録音録画を実施していた。

 調書の署名を拒否しても、裁判になれば、検察は取り調べを録音録画したDVDを証拠請求し、裁判所はそれを証拠採用することになるだろう。今後、黙秘に転じたとしても、捜査の初期の段階で9人の殺人を認め、その供述が任意で行われている様子が映像で確認できれば、殺人罪での有罪方向の有力な証拠として扱われるはずだ。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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