推定無罪の原則は何処に? 取り調べで中学生を脅す警察官とそれに理解を示す市民は過去の冤罪事件に学べ
またか……と思った人も、多いのではないだろうか。
警視庁高井戸署で、万引き事件の取り調べをしていた警察官が、否認している男子中学生2人に対し、黙秘権の告知もせず、「高校に行かせねえ」「否認すれば間違いなく牢屋に入れるんだぞお前」などと怒鳴りつけて自白を迫ったことが発覚。東京弁護士会が、人権侵害として同署に警告した。警視庁も謝罪し、取り調べを行った警察官2人を処分したというが、録音がなければ、果たしてどうなっただろうか……。
繰り返されてきた自白の強要
この中学生2人は、万引きの現行犯で捕まった別の少年が、「同級生2人に万引きをするよう強要された」として名前を挙げたため、事情聴取を受けることになった。少年の1人が、母親の勧めでICレコーダーをしのばせ、録音した。
公開された録音からは、関与を否定する中学生に警察官がいらだち、怒鳴り散らす様がうかがえる。
「お前、(他の少年に)窃盗罪を負わせといて、ぬくぬくできると思ったら大間違いだぞ、てめぇらこそ地獄を見せてやるよ、あぁ~」
「遊び半分でやったか知らないけど、てめぇらがやったことは、既に立派な犯罪行為だ。だから警察に呼んでんだぞ、お前。わけのわからないこと言ってんじゃないよ、いつまでも、このやろう。わかったか!」
「俺を怒らせんじゃねえよ。この野郎いつまでも」
「もう二度としません、許してくださいと言わない限り、高校行けねえから。いいな」
罵倒の合間に、机を叩くような「バン!」という音も入っていた。
この中学生は、2時間の取り調べの間に否認から自白に転じたが、その後、父親に「やってない」と打ち明けた、という。捜査の結果でも、中学生らが万引きした事実は確認できなかった。
これまでにも、警察が取り調べ中に相手を威嚇したり、罵倒し、自白を強要する状況は、被疑者とされた人たちの録音によって明らかにされてきた。
2010年10月には、大阪府警東署で横領罪で任意取り調べ中の男性に対し、警察官が「お前、警察なめたらあかんぞ、お前」「殴るぞ、お前」「手ださへん思たら大まちがいやぞ、こらぁあ」などとヤクザもかくやの巻き舌で威嚇する様が、男性の録音で明らかになった。
2013年9月には、知人男性を殴ったとして70代の男性(その後、無罪が確定)を取り調べた大阪府警西堺署の署員が、やはり威嚇的言動で自白を迫り、男性が元教師であることを前提に「あんた、どうやって物事を教えてきたんや、人に」などと侮蔑的な態度もとった。これも男性の録音で明らかになった。
また、2012年には遠隔操作ウイルス事件で、警視庁、神奈川県警、大阪府警、三重県警が相次いで無実の人を誤認逮捕。それぞれの警察が誤った経緯を検証した報告書を発表した。この4件のうち、警視庁と神奈川県警では、誤認逮捕にとどまらず、虚偽の自白にまで追い込んでいた。
警視庁の報告書では、冤罪が生まれた原因を、被疑者とされた男性が、同居の女性をかばうために虚偽の自白をし、それを警察が見抜けなかったためとしている。あたかも、被疑者が自発的に虚偽を申し立てたかのような内容で、虚偽の自白を引き出した捜査員の取り調べのあり方については、検証も反省もなされていない。
神奈川県警の事件での冤罪被害者は、少年(19歳の大学生)だった。神奈川県警の検証は、発表される前に公安委員会に7回に渡る報告がなされ、その都度「様々な指導や指摘」があったとのことで、少年に対して両親立ち会いで再聴取を行うなど、警視庁のものよりは中身のあるものとなっている。その結果を踏まえ、再発防止策として、「少年の特性に十分配慮し、虚偽自白を生まない取調べに関する指導・教養の徹底を図る」などとする本部長通達を出した。
録音がなければ違法と認めない裁判所
今回の高井戸署の2警察官の取り調べ中の発言を聞くと、こうした過去のケース、他警察の事例などから、全く学んでいないことが明らかだ。