推定無罪の原則は何処に? 取り調べで中学生を脅す警察官とそれに理解を示す市民は過去の冤罪事件に学べ
正直な人にとっては、録音機の所持を問われて「持っていない」と嘘を言うのも苦痛だろう。また、適正な取り調べをしている警察官にとっては、後から「威圧的な追及を受けた」などと、被告や弁護人からありもしない非難を受けるのも心外なはずだ。そういうまっとうな人々を守るために、きちんと録音ができるような状況を作ることだ。
この点は国会や都道府県議会でもっと議論してもらいたい。議会で“自己可視化”を妨害させないための決議を挙げる、あるいは録音についてのルールを決める、というのも1つの方法ではないか。
もう1つ、今回の一件で憂慮するのは、中学生の少年に対してこれだけの恫喝が行われたにも拘わらず、警察のやり方に「理解」を示す声が少なくないことだ。
公表された事実から推測するに、万引きの現場を押さえられた少年が、自らの責任を軽くしようとして、万引きは強要されたものと虚偽を告げ、関係のない同級生2人の名前を出した可能性がある。そうであれば、典型的な巻き込み型冤罪と言えよう。
にもかかわらず、ネット上では、取り調べを受けた2人を、万引きを強要したと決めつけ、非難する声が一時あふれていた。
Yahoo!ニュースでは、その後コメント欄の著しく不適切な発言は削除されたようだが、それでも少年がICレコーダーを持ち込んだことについて、
「悪知恵の発達した中学生だこと」
「少年が手慣れている証拠なのになぜ気付かず擁護するんだ? 何とかして警察のあげあしをとり、罪を免れようとするのがみえみえじゃないか」
などと非難するコメントは残っている。Twitterでも、警察を批判するツイートに混じって、
「同級生に万引きを強要した加害者が、なに被害者面してんだ?」
「万引きしてるかもしれない中学生に別にあれくらい言ってもいいやろ。親も警察官怒る前に自分の息子怒れよ…。」
「悪ガキをあんなふうに叱ってくれるのは、むしろ優しいおまわりさんじゃないかと思う」
「万引きを強要された少年のことは考えないんですか? 関与が認められないのは、ただ証拠がないからだと思います」
といったツイートをいくつも目にした。
これが世論の多数派だとは思わないが、警察に疑われただけで犯人視する風潮は、依然強いのではないか。これまでの、たくさんの冤罪事件から学んでいないのは、市民も同様かもしれない。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)