平成29年11月29日、最高裁判所は大法廷判決においてこれまでの判例を変更して、強制わいせつ罪の成立について性的意図は不要であるという判断をしました。
強制わいせつ罪は「無理やりいやらしいことをする」という犯罪ですが、今までは「性的意図」、簡単に言えば「(性的な意味で)いやらしい目的」が必要とされており、純粋に復讐や金銭が目的な場合には犯罪が成立しないというのが最高裁判所の考え方でした。つまり、「いやらしい気持ちで、おっぱいを触ったわけではない」という主張が成り立っていたわけです。
しかし、今回の判例変更に伴い、「いやらしい気持ちがなかったとしても、おっぱいを触ったら、強制わいせつ罪が成立する」ということになったわけです。一般的な感覚からすれば、当たり前とも受け取れるかもしれません。
これまでの判例について
これまでの「強制わいせつ罪が成立するためには、性的意図が必要である」という判断自体は、昭和45年に下された最高裁判所の判決によるものです。
この事件は、とある男と内縁状態にあった妻が、男の下から逃げ出したことを発端とする事件でした。その男は、内妻が逃亡する際に、逃亡を手助けしたと思われる女性を復讐目的で無理やり裸にさせて写真を撮影しました。
この事件に関して最高裁判所は、強制わいせつ罪が成立するためには「性的意図」が必要であると判断しました。
しかし、「無理やり裸の写真を撮ったのに、強制わいせつ罪が成立しない」という考え方は、一般的な感覚からはずれているように思います。また、実際に反対の意見もありました。
そういえば、2000年代に放送された司法研修所を舞台にしたテレビドラマでも、主人公が「強制わいせつ罪が成立しない」という結論で本当にいいのか思い悩んでいる場面があったのを覚えています。これも、この裁判所の判断と、一般的な感覚のずれを描いたものでしょう。
このように、批判もあった判断ではありますが、これが40年以上も維持されてきたわけです。
実際に「いやらしい気持ちはなかった」という主張が認められていたのか
ただし、実際に「いやらしい気持ちはなかった」という主張が認められて、強制わいせつ罪が成立しなかった事件が多かったのかというと、そういうわけではありません。
たとえば、「女性を無理やり働かせるために弱みを握ろうとして、裸の写真を撮った」という事件では、「弱みを握るという目的があったことも確かだが、性的な目的もあった行為である」旨の判断のもと、強制わいせつ罪の成立が認められたという事件もありました。
このように、「たとえ別の目的があっても『性的な行為』をしている以上、『性的意図』があったことが認められる」というようなかたちで、強制わいせつ罪の成立を認める事件は多かったように思われます。
一般的に「おっぱいを触った以上、いやらしい目的があったんじゃないか」と思われるのが自然ですが、まさにそれと同じような考え方が取られていたといえます。
こういった理論を駆使することで、裁判所としては妥当な結論を出しつつ、最高裁判所の判断を維持してきたわけです。