【オウム裁判終結】事件の教訓を次代へ引く継ぐためにーー弟子12人の死刑執行について江川紹子の提言
海外では、イスラム国のようなカルトの問題も起きている。日本で、二度とオウム事件のような被害と加害を引き起こさないためにも、教育の中で、カルトに関する情報を子どもたちに提供していくことは必要だと思う。
また、次の世代が、この事件から教訓を学び、あるいはさらなる事実の解明に挑み、または私たちの世代の事件対応を検証するためにも、すべてのオウム裁判の記録を保存し、必要に応じてアクセスできるようにしておく必要がある。
刑事確定訴訟記録法によれば、裁判記録の保管期限を過ぎても、「刑事法制及びその運用並びに犯罪に関する調査研究の重要な参考資料であると思料するとき」は、法務大臣の判断で刑事参考記録に指定し、保存を続けることができる。
オウム事件は全記録を刑事参考記録に指定して保存を続け、必要に応じて開示し、将来は公文書館に移して検証と教訓の伝承の材料にすべきだ。
“生き証人”としての役割を期待できる弟子も
高橋被告の判決が確定することで、オウム事件についての関心は次のステージ、つまり死刑確定囚の執行に移っている。
刑事訴訟法では、死刑執行は判決確定から6カ月以内に行うこととされているが、「共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない」とある。高橋被告は、最高裁の決定に対して異議の申し立てはできるが、それが認められることは考えにくく、2週間程度で無期懲役の判決は確定するので、そこから松本死刑囚の死刑執行への時計が動き出すことになる。
共犯者は同時に執行するのが原則だが、オウム事件の死刑囚は全員が東京拘置所に収監されている。これまで、一日にひとつの拘置所でもっとも多くの死刑が執行されたのは、12人の死刑が確定した大逆事件。1911(明治44)年1月24日午前8時に幸徳秋水の刑執行が開始されたのを始めに、11人が執行されたところで日没のため中断され、残った1人、菅野スガは翌日の執行となった。
刑務官の負担を考えても、13人を1日のうちに1カ所で執行するのは不可能だ。日本で死刑執行の施設がある拘置所・刑務所は、札幌、宮城、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の7カ所。オウムの死刑囚も、刑執行のために今後、この7カ所に分散収容する可能性はある。
しかし、執行にあたっての問題は、人数の多さだけではない。
まず、少なからぬ死刑囚の再審請求がある。昨年末にも、数回目の再審請求中だった死刑囚の刑が執行されており、法務省は、再審請求中だからといって、執行を控えることはないという立場だが、それでも、初めて再審請求した者について、結論を待たずに執行するのは、躊躇があるのではないか。
となると、同時執行にこだわれば、初めて再審請求を行う者の決定が確定するまで全員の執行が延びることになる。だが、オウム事件の後に判決が確定し、すでに刑を執行された死刑囚もいる。先送りにも限度があろう。
加えて、オウム事件特有の問題もある。教祖と同時に他のオウム事件死刑囚の刑を執行すれば、今も松本智津夫を崇めるアレフの信者などかfら、「尊師と一緒に転生した」殉教者として扱われかねない。現役信者の松本への忠誠心をさらにかき立てるような事態は避けたい。