あの新聞界のドンと社長の不倫スキャンダルが、大手新聞合併の妨げに!?
「僕が心配なのはですね、国民新聞が合併に横やりを入れることじゃないんです。仮に入れられても、心配はないんです。それはわかっています。でも、太郎丸さんが日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所の会長ポストに居座り、マスコミには今も隠然たる影響力を持っています。ジャナ研にはうちや大都さんから、記者として実力があって煙たい連中を飛ばしていますから、彼らを使って何かするとか……」
「そういうこともありえないわけではないが、大したことはできやしない。仮に何かやっても、それほどマイナスにはならんだろう。それにな、君らは知らないだろうが、ジャナ研には近々、うちから“スパイ”を送り込む。“不満分子”の動静は逐一、入るようになるんだよ」
薄笑いを浮かべた村尾が首をかしげると、小山は意味ありげな顔つきで続けた。
「ちょっと言いにくいんですけど…。えい、この際、話しちゃいましょう。週刊誌なども巻き込んで、うちや大都さんのブランドイメージの失墜を画策することはありうるんじゃないかと思うんですけど、どうでしょうか?」
「ふむ。ブランドイメージの失墜?」
黙って聞いていた松野が腕を組み、少し表情を暗くして唸った。
「ええ、そうです。今日の“身体検査”でわかりましたように、うちも大都さんも経営陣はもちろん、僕らのような編集幹部も皆、“脛傷者”です。スキャンダルがキャリアパスになっていることは否定できないです。この辺りを突かれると、やばいんじゃないかと……」
小山が茶目っけたっぷりに応えた。
「なんだ、小山君、そんなことを心配しているか。君らのスキャンダルなど、塵みたいなものだぜ。世の中、誰も関心ないさ。週刊誌が情報をつかんでも、記事になんかなるわけない。君、うぬぼれすぎだぞ」
少し顔を曇らせた松野が破顔一笑して、脇の北川を見た。
「社長、おっしゃる通りです。僕のスキャンダルだって、これまでも週刊誌が記事にする気があれば、とっくに表沙汰になっています。小山さん、あなたのも同じじゃないか。まあ、だから、うちの社長の言うとおり、杞憂だと思うよ」
「いや、僕らのスキャンダルを心配しているんじゃないんです。そりゃ、将来、社長にでもなれば別でしょうけど……」
小山は頭に手をやりながら、苦笑いした。それが松野の神経を逆なでした。
「『社長にでも』という言い方はないぞ。何を考えているんだ」
小山は首をすくめて頭を掻いたが、松野は追及の手を緩めない。
「大体な。さっきも言ったが、“身体検査”というのはトップが部下についてやるんだ。君は、俺と村尾君のスキャンダルが危ないとでも言いたいんじゃないだろうな。もし、俺たちにスキャンダルがあったとしても、もう社長なんだから、とっくに表沙汰になっている。そうなっていなんだから、スキャンダルはないし、心配もいらん。いいな。わかったな」
松野が小山を睨みつけるのを見て、村尾が引き取った。
「先輩、もういいでしょう。とにかく、発表までの間、情報管理を徹底することを確認して、今日はお開きにしましょう。それに、注意しても始まりませんが、太郎丸さんの動向にも気をつける、こんなところでどうでしょう、先輩」
松野は大きく頷き立ち上がると、老女将を呼んだ。
「おい、もう帰るぞ」
しかし、松野の声には普段の張りはなく、表情にも一抹の不安の色が差していた。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)
※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。
※本小説の連載は今回の第33回をもって、しばらく休載させて頂きます。続きは今年夏をめどに第2部として再開する予定です。