SNSによる情報操作に対する心構え…私たちが“被害者”にも“加害者”にもならないために
平昌オリンピックで羽生結弦選手が日本に最初の金メダルをもたらし、宇野昌磨選手も銀メダルを獲得した翌日の新聞は、スポーツ面はもちろん、一面、社会面見開きも男子フィギュアのニュースで埋め尽くされた。そのため、内側に掲載されたこのニュースを見落とした人も少なくないのではないか。
アメリカの2016年大統領選挙へのロシア介入疑惑などを捜査しているモラー特別検察官が、ロシア国籍の13人と関連企業3社について、SNSを用いて組織的な情報工作を展開し、大統領選に介入したと断定し、起訴に踏み切った。
ロシアによる、米大統領選介入疑惑
報道によれば、主犯とされる実業家は、ロシアのプーチン大統領に近い人物で、サンクトペテルブルクにある「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」を拠点に活動。ツイッターやフェイスブックなどで数百の米国人名義のアカウントを使い、架空の「オピニオンリーダー」を生み出し、民主党候補だったヒラリー・クリントン氏を中傷したり、共和党の他の有力候補者を貶めてトランプ支持を誘導した、とのこと。民主党支持者が多い人種的少数派に向けては、トランプ、クリントン両氏のひどさを訴えて、投票を棄権するような宣伝も行われた、という。こうした費用として、月ごとに最大125万ドル(約1億3,700万円)が投入されていた、と伝えられている。
昨年秋の段階でも、フェイスブック社は過去2年間にIRAによる約8万件の投稿があり、1億2600万人ほどの米国人がそれを閲覧した可能性がある、と米議会に報告。ツイッター社も、ロシアの諜報機関に関連した2752のアカウントを確認したと報じられていた。
また、2016年に行われたイギリスがEUを離脱するかを問う国民投票でも、ロシアから、離脱の方向に人々を誘導するようなSNS発信があったと伝えられている。また、昨年のフランス大統領選でも、マクロン候補(現大統領)のメールがハッキングされSNSで拡散されたり、偽情報が出回り、ロシアのハッカー集団の関与が指摘された。
ロシア側は、「欧米の『嫌ロシア』キャンペーンの一環だ」と反発するが、今回のアメリカでの起訴は、一定の裏付け証拠が揃ったということだろう。
他国の選挙への介入が事実とすれば論外で、強い非難に値する。また、トランプ大統領も、ロシアの関与は「フェイクニュースだ」の一点張りではいかなくなるのではないか。
ただ、虚偽情報の普及が選挙や国民投票などでの民意に悪影響を及ぼす問題は、ロシアのみを責めればよい話でもない。
米大統領選に関しても、誤情報を流したり、世論を一定の方向に誘導したりする動きは、何も海外からの介入ばかりではない。たとえば、ニュースメディアを装った米国人による偽サイトで流された「反トランプ集会の参加者には3500ドルの金が支払われている」といった虚偽情報を、トランプ陣営はSNSで拡散した。
また、情報の受け手の問題もある。
18日付の朝日新聞は、次のような米識者のコメントを紹介している。
「テレビや新聞を見なくなった米国人が、本当に何が起きているのか知らぬまま、ネットの情報をうのみにしてしまった結果だった」
テレビや新聞にも、誤報はある。だが、複数のマスメディアに触れることができれば、誤った“スクープ”を別のメディアが否定したりして、情報は常に修正され、人々が誤情報に惑わされるリスクは減る。
一方のネットメディアの場合、それぞれが自分の好みの情報ばかりが集まるような環境が出来上がりやすい。ネット依存度が高いと、他メディアが発信する修正情報に接する機会が少なくなりがちで、誤情報に誘導されるリスクは高まる。
ネットのおかげで、手に入りうる情報の量はうんと増えているが、皮肉なことに、ネット依存度の高まりによって、情報の受け手はむしろ“情弱”になっている、と言えるのではないか。