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江川紹子の「事件ウオッチ」第97回

SNSによる情報操作に対する心構え…私たちが“被害者”にも“加害者”にもならないために

文=江川紹子/ジャーナリスト

“ネット炎上”における共通点

 こうした状況は、程度の差はあれ、日本でも出来上がりつつある。米大統領選や英国民投票で起きたような現象が、日本でも起きうる。そんな土壌はすでにあると、私たちはよくよく自覚しておく必要があるだろう。

 昨年の総選挙の際にも、質量ともに米大統領選ほどではないにしろ、さまざまな偽情報がSNSを通じて拡散された。

 また、ブログやまとめサイトに、金を払って特定の政治傾向の記事を書かせる動きもある。

 昨年秋、クラウドソーシングサービス大手「クラウドワークス」に、「政治系の記事作成。保守系の思想を持っている方限定」とする書き手募集の求人が掲載された。1800~4000文字のブログ記事一つあたり800円で、記事の内容として、次のようなものを例示している。

「憲法9条を改正し、軍隊を保有すること、当然だと思っています。国際法上も当然の権利として認められていることが憲法では否定されているので、これは絶対に改正すべきです。安倍総理の改正案では緩いです。」
「石破さんは首相候補として相応しくない」
「共産党の議員に票を入れる人って反日ではないか」

 指摘を受け、同社は「利用規約やガイドラインに違反する」として、その求人の掲載を中止した。

 資金力があれば、人を集め、SNSのアカウントを大量に取得して、一定の主張を浸透させたり、反対する者を貶める投稿を組織的に行うこともできる。「オピニオンリーダー」を作り出し、簡単に事実確認できないフェイク情報を混ぜ込んで、世論操作を行うことも可能だろう。読んでいる人は、一般市民の投稿だと思い、意見を誘導されていることには気づかない。

 SNSでは、異なる意見の持ち主に、一斉に攻撃を加えて炎上させる行為は、すでに行われている。私のツイッターも、何度もそういう現象に見舞われており、そのたびに状況を観察をしている。

 それで興味深いのは、1)攻撃をしてくる多くが私のフォロアーではないにもかかわらず、2)私の元ツイートの発信から比較的短い時間で、集中的に反応が現れ、3)元ツイートを同じような趣旨で曲解している例がしばしばあり、4)投稿内容もよく似た言いがかり表現や侮蔑・中傷が多い――という点だ。こうした点は、最近、特にその程度を増しているように感じている。

 誰かがターゲットを日頃から観察し、攻撃やその方法を指示、もしくは例示したうえでの組織的な行為なのか。それとも、すべてが自主的な活動だが、繋がり合っている“同好の士”同士で情報交換をし、攻撃手法も共有した結果、同じような表現になるのか。どちらなのかは、分からない。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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