今秋の自民党総裁選をめぐる政局が本格化してきた。キングメーカー争いで安倍晋三前首相と麻生太郎副総理兼財務相のコンビが表舞台で動き出したのだ。
永田町で大きな注目を集めたのが、5月21日に発足した「半導体戦略推進議員連盟」だ。会長は甘利明・自民党税制調査会長。安倍氏と麻生氏は最高顧問に就いた。設立総会には約60人の自民党議員が出席、宏池会会長の岸田文雄前政調会長や清和政策研究会会長の細田博之元幹事長、平成研究会(竹下派)前会長の額賀福志郎元財務相といった派閥領袖クラスも顔を出した。
第2次安倍政権発足当初、安倍氏、麻生氏、甘利氏に菅義偉首相(当時は官房長官)を加えた4人が安倍政権を支える「3A+S」と呼ばれた。久しぶりの3Aそろい踏み。麻生氏が挨拶で、「Aが3人そろえば、なんとなく『政局』という顔だが、間違いなく半導体の話をしに来た」と冗談を飛ばしたのは、政局色の打ち消しより、むしろ政局色を肯定したようなものだった。
これに、メディアの政治部は一斉に反応。読売新聞が「首相の再選を視野に入れ、主導権を握るための動きなのではないか」という中堅議員の見方を示せば、時事通信は「首相の後ろ盾として存在感を増す二階俊博幹事長を牽制する狙いもありそうだ」と書いた。
「安倍氏と麻生氏にとっては、二階氏が最も目障り。2人は菅首相に対し、秋の総裁選での再選を後押しするから、その代わりに党役員人事では二階氏を幹事長から外せ、と要求しているらしい。今度の半導体議連を見ると、前回の総裁選で二階派とは一線を画す形で菅氏を共に推した細田派、麻生派、竹下派の3派閥が、今度の総裁選でも再び共同歩調を取るのではないかと思わせる。前回は出馬した岸田氏が今度も出馬できるのかどうか。岸田氏は3派閥に担いでもらうことを期待していても、現実には3派閥の後ろから一緒に付いて行くしかないでしょう」(自民党ベテラン議員)
岸田文雄氏の失速
総裁選の焦点は菅首相の続投ありきで「安倍・麻生vs.二階」の主導権争いに思われるが、実は別の観測もある。
「安倍氏は本当に菅首相続投で方針を固めているのか疑問です。というのも、安倍氏は昨年来、菅首相はあくまで自身のピンチヒッターであり、今年9月で終わり、と考えているというのが側近の見方でした。つまり、菅首相が続投するかどうかではなく、安倍氏が狙っているのは、キングメーカーで居続け、政権や党に強い影響力を与え続けることなのではないか」(自民党中堅議員)
では、菅首相続投でない場合は、誰なのか。もともと安倍氏は岸田氏を「ポスト安倍」と想定してきた。岸田氏は「ポスト菅」でも有力候補なのは間違いなく、岸田氏本人も安倍・麻生コンビに自身を推してもらうために半導体議連にも顔を出したのだろう。しかし、4月に行われた地元・広島での参議院再選挙の敗北もあり、下馬評では脱落気味だ。
「次の首相にふさわしい人」を聞く世論調査では、河野太郎行革担当相がトップの人気だが、立候補するためには、所属する麻生派の賛成がなければ、推薦人の20人すら集まるのかどうかわからない。最大派閥の細田派は西村康稔経済再生相、下村博文政調会長、萩生田光一文科相、稲田朋美元防衛相が競い合っているものの、決め手に欠ける。
「そこで、躍り出てくるのが安倍氏です。世論調査では、1位河野氏、2位石破茂元幹事長、3位小泉進次郎環境相の次の4位が安倍氏。石破氏は野党支持者や無党派からは人気が高くても自民党員には人気がない。進次郎氏はまだ総裁選出馬には早い。今度の総裁選は、解散総選挙の前に行われるなら『誰ならば選挙の顔』になれるかがポイント。そうなると、いまだ党員人気の高い安倍氏の再々登板の可能性が浮上してくる。それなら麻生氏もキングメーカーで居続けられるので納得するでしょうし」(前出の自民党中堅議員)
前首相の“まさかの再々登板”は、現実のものとなるのだろうか。
(文=編集部)