海外から9万人集結、「東京五輪型変異株」「コロナ&熱中症急増で医療崩壊」に懸念広がる
「本来は、パンデミックのところでやるのは普通ではない」
新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が、開催まで50日をきった東京五輪・パラリンピックに「ダメ出し」をしたことが、注目を集めている。
これまで政府は事あるごとに「専門家の意見を聞いて判断したい」と繰り返してきた。その専門家がここまでオリパラに否定的な進言をしたことの意味は非常に大きい。しかし、政府はどうにか尾身氏を黙らせて、世の中の五輪ムードを盛り上げたいようで、丸川珠代オリンピック・パラリンピック担当大臣などは、スポ根マンガ顔負けの根性論をぶちまけている。
「我々はスポーツのもつ力を信じて今までやってきた」
信じる心があれば勝てる――。戦時中の「日本は神の国なので負けない」を彷彿とさせる“カミカゼ理論”だが、このような科学的根拠の乏しい日本のスタンスに世界は思いのほかドン引きしている。
5月上旬、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどアメリカの有力紙で「中止」を求める評論が相次いだことを筆頭に、先月25日にはニュージーランド保健省の新型コロナウイルス対策本部の顧問を務めるオタゴ大学のマイケル・ベーカー教授が感染拡大の危険性から、「現状で五輪を開催する根拠も正当性も存在しない」と主張したことが報じられ、各国から否定的な意見が噴出。6月1日には、米ウォール・ストリート・ジャーナルも「東京五輪、どう対処しても失うもの多い日本 開催でコロナ感染拡大のリスクも」と主張したほか、4日には英フィナンシャルタイムズが、五輪の一部スポンサー企業が「延期」を要求しているという報道もあった。
ただ、いくらこのような国際世論が高まったところで、「カミカゼ五輪」が中止されることはないだろう。巨額の放映権料と入場料収入を失いたくないIOC(国際オリンピック委員会)は「緊急事態宣言が発出されても開催する」と断言しているし、日本政府も東京都も契約不履行を恐れてこの方針に盲従している。
そこに加えて、日本の政治組織の構造的な欠陥もある。ベストセラー『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫)や多くの専門家たちがこれまで指摘しているように、日本の組織は、「上長への過剰な忖度」「出る杭は打たれる」「ムラの論理を優先」などの閉鎖的なカルチャーが強いため、外部からの指摘に耳を貸さずに暴走しやすい。太平洋戦争で、最前線の兵士や沖縄におびただしい犠牲が出て敗色濃厚になっても、頑なにそれを認めず戦争を継続したのが、その典型だ。
国内外の専門家たちからの指摘に加えて、このような歴史の教訓を考慮すれば、今回も同じような結末をたどる可能性は高い。オリパラを開催することで国際社会での日本の評価を著しく低下させて、コロナからの経済復興も勢いを失う。
つまり、諸外国が批判的に捉える「カミカゼ五輪」を強行することで、日本が外交的にも経済的にも「敗戦」をしてしまうのだ。
「日本の衰退のきっかけ」になるのか
では、具体的にそれはどのようなものになるのか。まず最悪のシナリオとしては、専門家からも心配の声が上がっている「東京五輪型変異株」の発生だ。
6月4日、北アフリカ地域から先月帰国した50代男性から変異株「C36」が確認されたという。欧州やアフリカにある変異株で、国内では初めてのことだ。現時点でこの程度の「水際対策」なのだから、世界のさまざまな国と地域から日本に9万人もの人々が集まればどんな事態が起きるのかは、容易に想像できよう。
「そこはバブル方式で日本人と接触しないようにするので大丈夫」と政府は胸を張るが、選手村は強制収容所ではないので当然、「バブル」の外で日本観光をする者も現れるだろうし、メディア関係者も自由自在に取材をする。以前から問題視されているように、東京に世界各地の変異株が集められ、そこで新たな変異を生み出して、また世界に広めていくという「ウイルスの培養皿」の役割を果たしてしまうのだ。
実際、海外メディアの中には「パンデミック下の五輪が失敗した場合、誰が責任を取るのかを明確にしておく必要がある」という声も多い。昨年、「武漢ウイルス」「中国ウイルス」という差別的な言葉とともに、中国が世界にウイルスを広めた犯人として国際社会で批判され、アジア人ヘイトを助長したことは記憶に新しいが、それと同じように今度は「東京ウイルス」が世界からバッシングされてしまう恐れもあるのだ。
もし、このような問題が起きなかったとしても、日本の「敗戦」は避けることができない。五輪報道のついでに、日本のワクチン接種の遅さなど「途上国ぶり」がリアルタイムで世界に発信されてしまうからだ。
ワクチン接種が進んでいる先進国の多くは、マスクを付けずに食事やパーティを楽しむなど日常を取り戻している。しかし、五輪開催時の日本は間違いなく、国民の大多数はマスクを着用している。また緊急事態宣言が再び発出されたり、飲食店の営業自粛などを強いられている可能性もある。ちょうどこの時期、コロナ以外にも「医療崩壊の危機」を招くリスクが高まっているからだ。
それは、「熱中症」だ。東京都監察医務院によれば昨年8月の熱中症死亡者数は196人。これがいかに深刻な数字かということは、昨年の同じ8月に都内でコロナで亡くなったのが33人だったことからもわかる。当時、東京都は、感染拡大防止策として飲食店、カラオケ店などへ午後10時までの時短営業を要請をしていた。このような感染防止対策をしながらも、実はコロナの6倍の熱中症の死者を出していたのだ。
今年はここに、炎天下で活動をする9万人の選手・スタッフ、海外メディアの人間、さらに7万人のボランティアが熱中症のリスクに晒される。コロナの感染拡大が起きなくても、天候によっては「熱中症患者急増による医療崩壊の危機」が起きる可能性は十分にあるのだ。
このような日本社会の混乱が、五輪報道のついでに全世界へと広められていけばどうなるか。「先進国だと思っていたけど、かなりやばい国なんだ」と日本の国際的な評価はガタ落ちだ。日本政府が経済再建の柱に置く、「外資系企業の国内誘致」や「五輪をきっかけに日本のインバウンドを加速」という目論見も崩れていくだろう。
日本では「1964年の東京五輪をきっかけに日本経済は発展した」という神話が根強いが、2021年の東京五輪は残念ながら「日本の衰退のきっかけ」になってしまうかもしれない。